成立前にその賛否が議論を呼んだ「秘密保護法」。来月10日には施行されるが、漫画家の内田春菊は政治の意図的な曖昧性に苦言を呈する。
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この法律、何なんですかねえ。新聞記事や資料を読んだりしても、ぼやーっとして、実態がよくわからないんですよ。「なんだか複雑でよくわかんない」。それが狙いなのかな。
この法律見ていて思い出したんですけど、学生に漫画を教えて「どんなものを作りたい?」と聞くと、「今までにないものを描きたい」とか、よく言うんですよ。それでできた作品を見ると、折り紙の中にちまちまっと漫画が描かれたりして。「確かに、今までにないけど、読みにくいよね……漫画なのに……」っていう。それと似てません?
でも結局、政治ってこういうことなんだろうなあ。
素人が読んでも「へえー」って思うだけで、結局何が書かれているのかわからない。わからないように書くのが目的だったんじゃないか──。でも、それって本当は違うんじゃないの?
「何が秘密にあたるかは秘密」「秘密をどうして秘密にするのかは秘密」「どんな秘密をもらして、捕まったのかは秘密」──。もう、何がなんだか私にはわかりません。何を言ってるんですか? これ。
日々の生活にかかわっているわけじゃないから、今は何となく「ふーん」って思っていますけど、薄気味悪いということは感じて、用心はしています。
私はよく誤解されるんですけど、「表現の自由だから何でも規制すべきではない、法律で縛るのはよくない」とは思っていないんですよ。都道府県の青少年健全育成条例なんかで有害図書が問題になったことがあったでしょう? 子ども向けに性的な描写や暴力的なものは規制すべきだって。それはそうだよな、と思っている。私は濡れ場を描くのは好きですけど、ストーリーとしてあるべきだと思うから描いているだけ。子どもに向けて描く気はない。表現の自由だからといって子どもに間違った性描写を植え付けたり、ロリコンを喜ばせるエロが野放しなのは日本だけですよ。
アニメの「サザエさん」でワカメちゃんの“パンチラ”があるでしょう。あれが欧米で問題になったって聞いたとき、「ざまあみろ」と思いましたもん。サザエさんが嫌いなわけじゃないけど、ロリコンとパンチラは日本の恥ずかしい文化だと思っていましたから。
「スパイ活動・テロの防止」にこの法律が必要なんですよね? 無駄だと思うわけじゃないけど、法律や規制って作っても地下に潜るだけで、「あんまり意味ないんじゃないの?」って思うのはだめですか?
※週刊朝日 2014年11月14日号