堀江貴文氏は、動画広告は今後面白い広がり方をしていくだろうとこういう。
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■今年は本当に動画元年なのか?
テレビCMは、ローカル放送局でしか放映されない格安CMか新製品や新サービスを大々的に全国レベルで認知させる以外、費用対効果は期待できないレベルにまで下がってきている。
すでにテレビでCMを流すというプレミアム感を広告クライアントに感じさせるくらいしかアドバンテージはないかもしれない。
3年半ほど前にそれを象徴するような出来事があった。実は東日本大震災の翌日は九州新幹線の全線開通日であった。大々的にCMを流してPRをする予定だったが、震災の影響で開通記念イベントもCMもぶっ飛んでしまった。しかし、ユーチューブにそのCMがアップされるやいなや、全国的に大反響を呼んだのである。
アップした人のIDを見る限り、オフィシャルではないようだが、その180秒バージョンのCMは、開業に先立ち鹿児島中央駅から博多駅までの全線をゆっくりと走る新幹線の中から沿道の人々を撮影したものだ。
震災後の暗くよどんだ気持ちを明るくしてくれるようなCMである。私なんかも人に見せるたびに涙ぐんでしまうレベルだ。
テレビでCMを流すと言っても、せいぜい15〜30秒程度だ。この180秒バージョンのCMを流そうと思ったら大変である。事実上、全部は放映できないだろうし、感動を呼ぶこともなかったかもしれない。幸か不幸か、震災でほとんど放映されなかったが故に全国から注目され、500万回以上再生されたのだ。おそらく多くの人はこのCMを見て「JR九州を応援したい」と思ったことだろう。
また、岩手県盛岡市にある東山堂の音楽教室のCMも泣けるCMだ。妻を亡くしたお父さんが娘の結婚式のために一生懸命覚えたカノンをピアノで演奏するというストーリーで、こちらも200万回以上再生されている。
この二つの例を見る限り、動画広告の効果は非常に高いと言わざるを得ない。両者とも感動させるだけではなく、企業アピールもしっかりできている。後者のCMなんて、これを見てピアノを習いに行こうと思った中年のおじさんは多いのではないだろうか。
もちろんテレビでこの感動をシェアすることはできない。しかし、動画ならば簡単にシェアすることが可能だ。感動は感動を呼び、幾何級数的に視聴者が拡大していく。それも嫌がる相手に無理やり見せているのではない。視聴者が勝手に自主的に見に行くのである。
また、私がアドバイザーを務めるフォトキュレーションアプリ「Antenna」の動画広告も新しい風のひとつといえるだろう。ビジュアル重視の記事をスクロールしていくと、間に数秒の無音の動画が仕込まれている。それを見てふと気になる数秒があったらタップすればそのCMをじっくりと見ることができるのである。
これからの動画広告はテレビCMとは全く違った独自の進化を遂げていくに違いない。
※週刊朝日 2014年10月24日号