去る4月21日の参議院決算委員会で、モルガン銀行東京支店長などを務め13年7月の参院選で初当選を果たした藤巻健史氏は、太田昭宏国土交通相に計画道路に関する質問を投げかけた。

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 参議院議員だった弟・幸夫の四十九日(5月2日)が過ぎた。思い起こすに、国会は葬儀に際し、多大なご配慮をしてくださった。感謝の念でいっぱいである。

 芝・増上寺から焼き場への出棺に際し国会正門前を通ったら、衛視の方々、数十名が隊列を組み、敬礼で見送ってくださった。聞かされていなかったので驚いた。

 参議院での幸夫の座席は、今年1月から席替えで私の隣になった。健康であれば隣り合わせのところであるが、昨年12月に倒れ、ICU(集中治療室)に入ったまま幸夫の名札は寝たままだった。名札は登院した証しに自分で立てるのだ。3月15日に亡くなった後も、名札は私の座席の斜め前の最前列席に移ったものの、寝たまま存在し続けた。そして4月16日、登院したら名札が立てられていたのだ。さすがに涙が出た。藤本祐司議員の幸夫への追悼演説の日のことである。翌日から名札は消えた。

 その幸夫は国土交通委員会に所属し、主としてクールジャパンの海外への売り込み提言などを数多く行い、党が違うにもかかわらず太田昭宏国土交通相に可愛がっていただいていた。

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 4月21日の参議院決算委員会は、その幸夫の所属した国土交通省の省庁別審査だった。幸夫を可愛がってくださった京都大学工学部土木工学科ご出身の太田大臣は、お顔に似合わず(失礼!)ユーモアのある方だった。質問に対して「私は土木屋ですから、ご指摘の点に関しては担当部署にハッパ(発破)をかけておきます」と答えられたのだ。この日、私は計画道路(新しく道路を造る計画)に関して質問した。

 計画の線引きにかかった地域は、原則2階建て以下の木造といった簡易な建物しか建てられなくなる。しかし、計画が決定されてから規制だけかかって、買収もされずに放っぽらかしの場所も多い。

 それでも「公共の福祉のために受忍すべき」と言われれば、それはそうだとも思う。しかし、それは「受忍すべき期間の長さ」と「逸失した利益の額」いかんだ。

 実は東京には昭和21年に計画が決定されてから放っぽらかしの場所がかなりある。たとえば、第1京浜沿い7.5キロメートル、第2京浜沿いには7.3キロメートルもあるのだ。山手通りと環七通りの間の青梅街道沿いもそうだ。これらの地域の逸失利益は巨額だ。

 放っぽらかしにされて約70年。鉄筋鉄骨コンクリート造り建物の税務上の減価償却期間(50年)より長い。ひと一人の人生に近い長さでもある。計画の再検討、もしくはそれなりの補償を検討しないのは、役人、政治家の怠慢そのものだ。それでもお役人が「私有財産権の侵害でない。受忍すべきだ」と強弁するのならば、私は「日本に私有財産権など存在しない」と思ってしまう。憲法がいくら「財産権は、これを侵してはならない」と明言し「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と書いてあっても、だ。

 多くの国民には直接関係ない話だろう。しかし、これは日本が法治国家か、否か。憲法を尊重する国か、否か。役人が怠慢であるか、否か。それらを判断する材料となる事例であり、根本的な問題なのだ。

週刊朝日  2014年6月13日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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