『あまちゃん』以降、注目を浴びるNHK朝の連続テレビ小説。その人気の秘密は「友達感覚」の距離感だと、ドラマ評論家の成馬零一(なりまれいいち)氏はいう。

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 今のテレビドラマ・シーンにおいて、圧倒的な存在感を放っているのがNHK朝の連続テレビ小説、通称「朝ドラ」です。

 かつては高視聴率を獲得した1週間1話・1クール(3カ月)の連続ドラマは、一話完結モノの刑事ドラマと『半沢直樹』のようなメガヒット作以外の視聴率は、低下の一途をたどっています。理由は色々あるのですが、娯楽やライフスタイルが多様化したため、毎週・同じ時間に見るのがメンドクサイというのが一番だと思います。

 対して朝ドラは月曜から土曜まで週6話放送され、朝8時からの本放送の他に昼の再放送やBSでの放送も含めて、一日4回も放送され、1話も15分と短く、気軽に楽しめます。現在放送中の『花子とアン』では、『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子(吉高由里子)を主人公に、学問によって貧困からのし上がっていく姿を描き、早くも話題沸騰ですが、2クール(半年)という長丁場ゆえに登場人物に対する親近感が湧きやすいのも朝ドラの魅力の一つ。3月に完結した『ごちそうさん』では、そんな距離感の近さから、面白い反響が巻き起こりました。

『ごちそうさん』は、明治末から昭和の終戦直後を舞台に、食べることが好きなめ以子(杏)が成長していく物語です。

 一見、ありがちな朝ドラのようでありながら、物語は女学校モノ、嫁姑モノ、戦争モノと、次々とジャンルが変わっていき、その中に伏線を盛り込んでいく森下佳子の小技のきいた脚本は高い評価を受け、平均視聴率は22.3%(関東地区)を獲得。この数字は、この10年でもっとも高いものです。

 僕が視聴者の心に届いているなあと感じたのは、め以子の夫・悠太郎(東出昌大)と幼馴染みの亜貴子(加藤あい)の間での不倫未遂が描かれた時でした。悠太郎の気持ちを確かめるために亜貴子の元を訪れため以子は、過去に二人の間に何があったのか問い詰めます。そこで亜貴子から語られたのは、幼い時に火事で親を亡くした悠太郎と亜貴子の間に存在する特別な絆と、かつて駆け落ちしようとしたという過去の思い出でした。真相を聞いため以子は敗北感に打ちのめされて寝込んでしまうのですが、結果的に亜貴子の古傷をえぐることになっため以子の行為に対して、無神経だと怒る人もいれば、女房が夫の過去を知りたいと思うのは当然だと、擁護する人もいる。いや、悠太郎や亜貴子の誤解を与える態度が悪いという人もいて、喧々囂々の激論がネット上で起こったのです。

 め以子や悠太郎がドラマの登場人物であることを忘れ、まるで友達を非難するかのように怒っている。僕も「何なんだ、この鈍感デカ女は!」と、め以子の振る舞いにイライラしていました。それだけ「ドラマを見ている」という意識が消えてしまうくらい、登場人物との距離感が近かったのだと思います。

 こういった「フレームが消える感覚」は、主人公に寄り添って続いていく半年間の“マラソン”だからこそ起きる現象なのでしょう。結局、不倫騒動は悠太郎がめ以子の元に戻ることで一段落しましたが、初恋の人との過去の思い出ではなく、長年連れ添った妻とのダラダラと続いていく生活を選ぶこと自体、日常性を大切にする朝ドラらしい選択に思えます。

週刊朝日  2014年5月9・16日号