誰もがその名を知るミュージシャン、ボブ・ディラン。“神様”として世界中のアーティストに影響を与えたディランだが、ミュージシャンの泉谷しげる氏と漫画家の浦沢直樹氏も彼を愛するファンの一人。そんな二人がディランを語り合った。
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浦沢:ディランは絵画から詩をつくるという方法を70年代からやってますよね。
泉谷:彼自身、きっとペインティングしている。この色はピンクだったんだけど、黒にしちゃえとか。
浦沢:今、大学で学生たちに漫画を教えているんですけど、「君ら白紙を目の前に何も思いつかなくて茫然とするだろうけど、実は僕も毎日毎回、白紙を前に、どうしようと。同じなんだよ」と。そこから描き出すか、どうかが問題。
泉谷:どんだけやっても、できないことも快感だよ。最後は自分を笑っちゃう。
浦沢:でも最終的におやっとなってパーッとできあがったときに、「俺、天才かもな」ってなる訳ですよ。
泉谷:俺ね、新しいアルバムを作るたび、ゾッとしますもん。その生みの苦しみを思い出すと。でも、創造はファンタジーで、それは誤解も生むからおもしろい。例えば、ディランは「社会に対するアンチテーゼを歌った人」と勘違いされている。でも、本人は何も考えてない。
浦沢:それでファンタジーなのに、現実になってしまうんですよね。僕も、漫画を描いていてそういう経験がありますよ。『YAWARA!』を描いていると田村亮子さんみたいな選手が出てきたり、『20世紀少年』のときは、米国で9・11の同時多発テロが起きたり。今の東京だって、こんなに高層ビルが建っているのは、手塚治虫が描いた未来世界に現実を近づけようとしているように思える。
泉谷:そうなんだよ。ファンタジーでない実際のディランは、ギターは下手で、ハッキリ言って間抜け。だけど自分のことをイイ男だと思ってる。
浦沢:人間のいい加減さを体現してる。ヒューマニズムの塊なんです。
泉谷:そこが“神”なのかなと思っちゃうよね。
浦沢:あの徹底した詐欺師とダメ男ぶりは、佐村河内守に学んでほしいですよ。
泉谷:無理! あいつには絶対できない!
構成 本誌・西岡千史
※週刊朝日 2014年4月11日号
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