東京大学法学部に元気がない。かつては政財界は言うに及ばず、芥川賞作家やプロの囲碁棋士ら多彩な人材を世に送り出してきたのだが、近年はパッとしない。学部の「就職力」を詳しくみると、日本一のエリート学部が、意外に就職活動では強さを発揮できていない。歴史とデータが物語る「東大法の栄光と挫折」とは――。
東大法学部生の進路先を見れば、確かに“一流企業”の名も並んでいるが、やはり就職先は今も昔も法曹界と官僚が基本だとわかる。ロースクールが2004年に開校してからは、進路は「大学院」が常にトップを占める。
「ところが最近は司法試験に合格してからの就職難が話題です。これがさらに東大法の逆風となる可能性がある。実際、文Iと文IIの人気や難易度が逆転する日が来るのではないかと注目する教育関係者もいるほどなんです」(大学通信の安田賢治・常務取締役)
長く文系最難関だった文Iが文IIに逆転される――東大法の“凋落(ちょうらく)”が迫っているのだ。この原因を「エリート教育の崩壊」と指摘するのは、自身もOBで経産省に進み、現在はシンクタンク「青山社中」代表を務める朝比奈一郎氏だ。
「戦前の帝大法は、近代国家の土台を担う真のエリート育成に加え、法技術教育にも力を入れていた。だからこそ、あれだけ首相が輩出したのだと思います」
日本の歴代首相62人のうち15人、約4分の1が東大法の前身である、「東京帝大法学部」卒だ。1924(大正13)年の加藤高明から始まり、特に戦後は吉田茂、鳩山一郎、岸信介と大物が続く。最後は91年の宮沢喜一だが、実は「東大法学部」となってから後、卒業生の首相は誕生していない。
「戦争責任に対する反省は理解できますが、やはり戦後の東大法はエリート教育を忌避しすぎました。法哲学や国家観を自由に論じる機会は減り、実務的な法教育中心になってしまった。文字どおりの官吏育成機関となってしまったんです」(朝比奈氏)
※週刊朝日 2014年3月21日号