早稲田大学の池田清彦教授が、普天間基地移設問題と原発問題にこう言及する。

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 沖縄県名護市長選は普天間基地の辺野古移設反対を掲げる現職の稲嶺氏の圧勝に終わった。自民党も仲井真知事もこの敗戦はすでに織り込み済みだったとみえ、選挙の前に知事は大浦湾(辺野古基地予定地)の埋め立てを承認して、もう後戻りできないと嘯(うそぶ)いているがひどい話だ。以前にこのコラムでも書いたが、日米安保を破棄できないとの現状認識を是とする限り、普天間基地は嘉手納基地に統合するのが最も簡便なさしあたっての解決策である。

 嘉手納は空軍の基地、普天間は海兵隊の基地である。この両者はまあ余り仲が良いとはいえないので、当初はアメリカが反対していたが、近年はアメリカでも統合案が最も合理的だと言い出す人達が現れて、日本政府と沖縄県がOKということになれば、実現しそうな雲行きもなくはなかった。

 しかし仲井真知事は頑なに県外移設を主張したあげく、辺野古移設を承諾した。穿った見方をすれば、県外移設は無理だと承知の上での建前で、辺野古移設を前提としたパフォーマンスだったのだろう。なぜ辺野古かと言えば、基地建設の土木工事で大きな金が動くからだ。嘉手納統合では土建業は儲からない。しかし、その金は税金であり、国の赤字は更に増大することになる。東京オリンピックといい、辺野古移設といい、国は税金を使うことばかり考えている。確かに一時的には景気は上向くかも知れないが、将来に大きなつけを残すことになる。

 自民党の石破幹事長は原発を止めたままにしておくと、火力発電用のエネルギーを買うために、年間3兆6千億円のお金が海外に流出して、国家として大きな損失だと述べているが、これはおかしな理屈である。この金は結局は電気料金に加算されるのだから、原発より安全な火力発電の方が多少高くともよいとの消費者の選択の問題だ。国富が流出するから海外から物を買うなと主張する指導者が、今日びの世界にいるだろうか(北朝鮮は別だよ)。

 原発を止めたら景気が悪くなると言うが、目先のことしか考えない短絡思考だ。将来、大事故が起きるリスクが全くゼロでない以上、電力は足りているのだから、危険な原発を稼働する根拠はない。「喉元すぎれば熱さを忘れる」という諺をまっさきに忘れるのが為政者である国に未来はない。たとえ、原発に事故がなくとも、溜まり続ける高濃度の放射性廃棄物の安全な処理は目途さえ立っていない。目途が立ったとしても、その費用は天文学的な額になるだろう。オレはもうすぐ死ぬから困らないが、若い人は可哀想だ。

週刊朝日  2014年2月21日号