1月25日の就任会見での発言が問題となったNHKの籾井勝人(もみいかつと)会長(70)。専門家は、そもそも発言内容に事実誤認が多いことを指摘する。
「従軍慰安婦」の発言は、法政大学の五十嵐仁教授(政治学)がバッサリ。
――戦争地域には、どこでもあったと思っています、僕は。
――従軍慰安婦が韓国だけあって、他の国になかったという証拠はありますか? あったはずなんですよ。従軍慰安婦をいいと言っている訳ではないですよ。だけど、どう思われますか? 日本だけやってると言われて。ドイツにありませんでしたか? フランスにはありませんでしたか? ヨーロッパはどこでもあった。なぜオランダには今も飾り窓があるんですか? 戦争しているところにはだいたい、つきものだったんですよ。(いずれも籾井NHK会長の就任会見での発言。以下、――後の文章はすべてこのときの籾井氏の発言)
「『どこにでもあった』と言うが、一般的な性売買と混同している。慰安婦のような制度は日本とナチス・ドイツだけだった。『みんなやってるから、僕は悪くない』というのはあまりに子供っぽい言い訳だ」
オランダの飾り窓発言については、「飾り窓は国に認められた公娼制度です。慰安婦とは根本的に違います」(五十嵐氏)。
そして、
――韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うから話はややこしい。だからお金をよこせ、補償しろと言っているわけですよ。日韓基本条約ですべて解決しているんですよ。それをなぜ蒸し返すんですか。
についてはこんな見解を示す。
「『日韓基本条約で解決した』は間違いです。条約は1965年に締結された。戦時賠償などを取り決めましたが、韓国で元慰安婦が最初に名乗りを上げて損害賠償を求めたのは1991年でした」(五十嵐氏)
慰安婦問題は対象になっていなかったという。
「特定秘密保護法」で発言した
――特定秘密法は政府が必要と説明しているので、それはそれで様子を見るしかない。あまりカッカすることはないと思う
は、「デモが起きたりして問題になっている。問題点や良い点などについて、多面的に議論する番組を作るべきでしょう。それなのに、まるで自民党政治家の発言と同じ。ジャーナリスト組織のトップの発言ではありません」(元NHK職員でジャーナリストの立花孝志氏)
会長を選ぶNHK経営委員には安倍晋三首相に近い人物が複数就く。首相との近さを籾井氏は否定したが、立教大学の砂川浩慶准教授(メディア論)は
――(個人的見解を番組に反映させることは)ありません。放送法と何度も言っているのは、それがあるから距離が保てるということ。
の発言を「責任感がなさすぎる」と憤る。
「会長は、人事や予算配分について絶大な力を持つ。こういう発言をしていれば、異動や予算を気にして、現場の記者やディレクターは萎縮してしまう。『個人的見解を反映させない』と言っても、トップ発言が番組制作に影響を持つことをまったくわかっていない」
※週刊朝日 2014年2月14日号