作家の室井佑月氏は、新聞を読むのが好きなのに、ネットばかり見ているという。

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 以前、人は自分で情報を選んでいる、という話を書いた。たとえば事故を起こした福島第一原発について、「大したことない」という人と「大変だ」という人がくっきり分かれてしまうのも、そういうことなんだろう。

 あたしはべつにそれでいいと思う。ただし、情報はたくさんあったほうが良い。どっちがいいか、と判断ができるくらいに。

 今回の都知事選で(この原稿を書いているのは1月26日です)わかったことは一つ。新聞は中立をうたっているけど、じつは中立なんかじゃない。

 あたしはそれもべつに構わないと思う。中立と嘘をつかなければ。

 海外の新聞は思想によって読む人が分かれていたりする。生活レベルで購入層が分かれているものもある。

 新聞が読み手のために書かれているものであるならば、この先の選挙からは、たとえば、

「我が社は××を支持します!」

 もしくは、

「我が社は××党を支持します」

 と宣言すればいいのに。

 そうすれば、読み手にとっては楽しく、また投票率も上がるだろう。全体的な新聞の発行部数も上がるに違いない。だって、選挙が気になる人は、気になる候補を応援する新聞だけじゃなく、ライバル候補を応援する新聞も読むもんな。

 新聞社はネタを確実に与えてくれる政府や、スポンサーである大企業の意向ばかりを気にしているようだが、読んでくれる人が増えればそんなことを気にしなくてよくなるのでは?

 逆に読んでくれる人が減っていけば、もっともっと企業や政府に配慮しなければいけなくなるし、となれば、比例して購読する人も減っていく。軽減税率を気にしている場合じゃないよ。

 選挙になると各候補者に配慮し、選挙のニュースが極端に少なくなる。でも、いちばん配慮しなきゃならないのは、一票を持っている国民だろう。国民が知りたい情報を、なぜ載せられない?

 冒頭で述べたように、人は好きな情報を選ぶのだから、それが偏ってたっていいじゃん。偏っていることを宣言すれば問題ない。今の新聞が気持ち悪いのは、そこを隠そうとするからだ。

 米軍基地問題、安倍さんについての反応、原発をどうするか、もっといえば、これから先の理想とする日本のあり方。この国に住んでいたら、一律の正義などあるわけがない。

 新聞各社が一斉に一律の報道をすることにもあまり意味を感じない。思想のカミングアウトがイヤなら、あったことだけいろんな角度からたくさん載せてくれればいいのに。国内向け国際向けと情報を分けることなく、世界の報道機関の情報と、日本の報道機関の情報をリアルタイムで数行書く。

 あ、それはネットでいいのか。都知事選告示後はネットばかり見てるよ。新聞読みながら、ご飯食べるのが好きなのに。

※週刊朝日 2014年2月14日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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