4世代がそろう細江家の食卓(撮影/写真部・岡田晃奈)
4世代がそろう細江家の食卓(撮影/写真部・岡田晃奈)

「肉好き」の高齢者が増えており、高齢者=粗食というのは、過去のイメージになりつつある。医師の中にも、高齢者の肉食を勧める人は少なくないようだ。

 1月7日、横浜市泉区。午後7時、細江順一さん(71)一家の夕食が始まった。この日のメニューは、恒例のしゃぶしゃぶ。肉と白菜、しらたき、豆腐が入った鍋とともに、妻の純子さん(70)が作ったカニ入りの茶わん蒸し、シラスときゅうりの酢の物、ごはんなども食卓に並ぶ。一家は、6人家族。細江さん夫婦とともに、鍋に手を伸ばすのは、細江さんの母、ふさゑさん(93)、長女の由紀さん(43)と夫の和仁さん(42)、孫の竜也くん(10)。実に4世代が、互いの仕事や学校でのこと、最近の関心事などを話しながら、肉をポン酢につけては、どんどん口に運ぶ。皿の肉は気持ちいいようになくなっていく。

 竜也くんにお酌をしてもらって、日本酒をおいしそうに飲むふさゑさんは、1921(大正10)年生まれだ。約20年前、細江さん一家と同居を始めたときからずっと、2階の自室で寝起きしている。階段を上り下りする足取りは軽く、週3回は大正琴や民謡、カラオケのレッスンに、近所の教室まで歩いて通っている。

 細江さん夫婦も、70代になった今も病気知らずで健康そのものだ。車を運転し、趣味のサークルにも顔を出すと50代に間違えられることもあるという。一家の食事は、主に純子さんが担当している。

「栄養学の勉強をしたことはありません。多くの食材をおいしく食べたいな、と。肉は、ただ焼くだけということは絶対にありません。なんとかひと手間かけ、玉ねぎなど野菜と組み合わせて焼いています」

 ふさゑさんの好物は、肉じゃが、ハンバーグ、すき焼きだ。食べる量は少し少ないが、ひ孫で平成世代の竜也くんとほぼ同じ好物だという。

 そんな細江さん一家の食事を「肉と野菜がバランスよく組み合わさっていて、長寿のために理想的」と評価するのは、『介護されたくないなら粗食はやめなさいピンピンコロリの栄養学』(講談社+α新書)の著者で、人間総合科学大学の谷修教授(高齢者栄養学)だ。

 長年、高齢者の食べ物を中心に長寿と栄養の側面から研究している熊谷教授は、病院などで指導されている「粗食」は、「動物性タンパク質や脂質が不足する『新型栄養失調』を引き起こす」と、警鐘を鳴らしている。

「糖尿病や高血圧、高コレステロールなど個々の数値や病気の対応にとらわれすぎず、栄養学として総合的な健康を目指さなければならない」

 肉を好む食生活は、本当に問題ないのだろうか? いささか心配になり熊谷教授に聞いてみると、「全く問題ありません。肉をしっかり、きちんと食べることは、長寿の秘訣のひとつです」と明快な答えが返ってきた。

「老化とは身体の中からタンパク質が抜けて、乾いて、縮んで、ゆがむ変化のことを言うのです。老化を遅らせるためには、筋肉や骨の材料となるタンパク質を身体に取り込み、たえず補給していくことが欠かせないのです」

 だが、「肉だけで済ませず、魚や乳製品、豆類からもバランスよく摂取することが大切です」と指摘するのは、大阪国際大学短期大学部講師の大原栄二さん(臨床栄養学)。肉を食べることは良いとしながらも、「肉だけに頼りすぎると、腎臓に負担がかかってしまう」と注意を促す。

週刊朝日 2014年1月24日号