近頃、本の出版依頼がこなくなったという作家の室井佑月氏。福島第一原発事故以来、マスコミに対して批判を続けてきたせいかと思っているという。そして、秘密保護法案反対キャンペーンを行ったマスコミに対してこんな感想をもったという。

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 福島第一原発事故が起こってからというもの、マスコミをだらしなく思う。こんな発言ばかりしているから、あたしは嫌われているんだろうか。本の出版依頼がきゅうになくなった。震災後からなんだか虚しくなってき、物書き団体の会員をみんな辞めちまったしな。 

 その昔、書いてくれ!といってくれた編集者に、「子育てが一段落ついたら」といって逃げ回っていたあたしも悪い。けど、今は逃げてない。本を出してよ、お願いだから。

 まあ、そんなことはどうでもいい。17年前のことだった、あたしは憧れてマスコミ業界に入った。たとえ末端であっても、そこにいられることを誇りに思っていた。だからなのだ、今のマスコミの姿勢に文句いいたくなるのは。

 世の中が平和な時は、仕事の使命感に燃えている人ばかりだったが、そういう人たちはどこにいった? 今こそ大暴れすべきというときに、なぜみんな背中をまるめ、まわりの動向ばかりを窺(うかが)っているのだ?

 以前、このコラムに国際基督教大学2年生の小林叶(かなう)さんの言葉を載せた。「傍観して自分の意見を言わないことは中立とは言えず、権力に力を与え続ける暴力行為だ」というもの。ほんとにその通りだと思う。

 マスコミは権力の監視役なのだから、安倍首相とくっつくことは国民に対しての暴力行為じゃないの?

 7日付の『日刊ゲンダイ』で、ジャーナリストの斎藤貴男さんはこんなことをいってたぞ。

――新聞社は、業界団体、新聞協会を通じて、消費税の軽減税率適用を訴えている。

「本気で戦うときに、お願いしますか? 安倍官邸は『コイツらの言うことなんて聞かなくてもいいよ』とタカをくくっていると思う。何だかんだいって、損得で権力になびく連中だからです。見くびられているんですよ。秘密保護法を潰したいなら、まず、軽減税率の陳情を引っ込めよ。そうでなければ、相手にされっこありません」(ジャーナリスト・斎藤貴男氏)

 そんなメディアが採決直前になって、秘密保護法反対の連載キャンペーンをやったところで、「反対しましたよ」というアリバイ作りみたいなものだ――

 こんなにすごいこというのに、斎藤さんの本はたくさん出版されている。やっぱ本が出せないのは自分のせいかね。

 いやいや、そこじゃない。終盤からやる気になったかのように見えたマスコミの秘密保護法案反対キャンペーン、やっぱあれはアリバイ作りだったのか。

 9日の夕方に行われた内閣総理大臣記者会見を見たからそう思った。秘密保護法が成立した後の会見。

 結局、秘密は秘密、疑問は疑問。突っ込みどころ満載の答弁だった。しかし、後半のマスコミのみなさんの質疑応答を見ていると、みなさんはお行儀良く納得されたようで。悲しい。

週刊朝日  2014年1月3・10日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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