■為替相場の法則性
吉田さんがそのような見通しを立てる根拠の一つは、為替相場の法則性。為替相場は中長期のスパンのみならず、短期的にもほぼ一定のサイクルを描きながら上下しているからだ。
「2000年以降のドル・円相場を振り返ってみると、短期的には『90日移動平均線』と呼ばれる指標との乖離が±10%付近に達すると流れが反転しています。すでに足元でもその水準まで達しており、ドルは円に対して売られすぎています」
「90日移動平均線」とは、短期的な相場の方向性(平均的な値動き)を示す指標だ。目先のドル・円がその推移とかけ離れた(大きく乖離した)動きになると、やがて流れが逆転して接近していくという法則性がある。
2000年以降、今回以外で乖離がマイナス10%付近に達したのは02年の7月と08年の3月。さらに、08年の10月と12月には瞬間的にマイナス10%を超えたが、直後に乖離は一気に縮小している。
「いずれの局面でもドル安・円高が進んで乖離がマイナス10%前後に達すると、ドル高・円安方向に大きく戻す動きが生じています。08年10月はリーマン・ショック直後で混乱していましたが、12月に再びマイナス10%を超えた直後から反発しています」
一方向へ極端な動きを示すと、反動で逆方向にも大きく振れやすいのが相場の習性なのだ。日米の金利差拡大が止まって縮小に転じたとしても、それを反映するのは反動(円安への揺り返し)を経てからになる。
02年の局面では1年以上、08年の局面では半年以上先でドルの安値(円の高値)が更新された。今回も同様の揺り返しが起きるなら、輸入物価の低下につながる円高の流れは、しばらく期待できそうにない。(経済ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2023年2月20日号より抜粋