安倍政権が十分な審議を経ないまま特定秘密保護法を成立させた。なぜこれほど急いだのか、その理由を早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授はこう推測する。
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食料自給率39%、エネルギー自給率4%しかない日本は、とりあえず世界各国、とりわけアメリカと付き合わざるを得ない。シェール革命によりアメリカは鎖国をしても生きていけるが、日本は奇跡が起きてエネルギー自給率が100%近くになればともかく、今のままでは鎖国をして自立するのは無理である。
遠い将来は知らず、現時点でアメリカが鎖国をしないのは、アメリカの多国籍企業の利益のためだ。ざっくり言ってしまえば、グローバリゼーションとは、この世の最終権力を国民国家から多国籍企業に移すことだ。グローバリゼーションを推進している人達も、そのことに意識的であるとは限らないとしても、グローバリゼーションが進めば結果的にそうなるに違いない。多国籍企業の望みは、一番コストのかからない地域で製品を作り、一番儲かる場所で売ることだ。
そのためには、経済に関しては国境などというややこしいものがあっては困る。多くの国をTPPに加入させ、関税を撤廃しようとの動きはこの線上にある。その結果、賃金の高い先進国では単純労働の空洞化が起こる。空洞化に抗おうとすれば、賃金低下に甘んじる必要がある。世界レベルでの単純労働者の賃金の平準化は不可避となる。
グローバリゼーションにとって、今一つ重要なファクターは、安価なエネルギーが供給されることだ。安い労働力で製品を作っても、それを運ぶのに多大なコストがかかれば、労働者の賃金が多少高くとも、地産地消した方が合理的である。安価なエネルギーと安価な労働力こそがグローバリゼーションの源泉なのだ。アメリカでシェール革命が起こった後で、TPPが重要な政治課題に上ったのは故ないことではない。
ところで、グローバリゼーションの恩恵に浴するのは、アメリカばかりでなく日本の多国籍企業についても然りであろう。逆に、日本の一般国民の大半は損することになるだろう。何と言っても単純労働者の賃金が徐々に下がることは必定だからだ。
民主主義国家では、国民の大多数に不利益をもたらす政策は支持されない。何とかごまかすためには、本当のことを知らせてはまずい。具体的に言えば、外交上の密約と称して国民に不利益になる情報を隠蔽すればよい。
TPPを推進しようとする安倍政権が、国民の大半が反対する特定秘密保護法をごり押しして通した理由はここにある。日本はこの先どうなるのか。あるいはあなたはどうすべきか。
※週刊朝日 2013年12月27日号