早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は、世界のエネルギー事情に大きな変化をもたらしたシェール革命後のアメリカの行く末をこう分析する。
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アエラにeyesというコラムがあって、少し前に姜尚中が「民主制ゆえの経済危機 矛盾抱えた米国の落日」と題して、アメリカが高度な民主主義国家ゆえに、政府の政策と議会が折り合わず、デフォルト寸前になった話を枕に、軍事力だけでなく、通貨、金融、経済などの面でも、米国だけを頼りにする時代に、少しずつ幕引きが始まったと考えたほうがよいとの、現在のエネルギー依存型の世界情勢からすれば、相当ミスリーディングな論評を書いていた。
確かにアメリカの政治システムは、潤沢な政治資金を持つ特定の利権団体に左右され易い構造で、利害対立に基づく国内向けの議論に終始しがちで、国民の多くも他国とどう付き合うかといった問題からは関心が薄れつつあるようだ。
しかし、それは世界の通貨、金融、経済などに対するアメリカの影響力が弱くなることを意味しない。むしろ、アメリカが内向きになればなるほど、世界はアメリカの動向を気にせざるを得なくなる。なぜならば、世界の人々がエネルギー依存型の現在の生活水準を曲がりなりにも維持して生き延びるためには、アメリカはなくてはならない存在だからだ。乱暴を承知で言えば、この見地からは世界はアメリカなしに生きていけないが、アメリカは世界がなくても生きていける。
アメリカでシェール革命が起こる前には、アメリカのエネルギー自給率は60%程度で、アメリカは中東の石油に頼らなくては立ち行かない国であった。石油利権のために中東に過度な介入を行った果てに9.11のテロが起こり、この状態が続けばアメリカの凋落は時間の問題であったろう。しかし、シェール革命は基底の条件を根本から変えてしまった。アメリカはもうすぐエネルギー自給率が100%を超え、2020年には世界最大の産油国になると予想されている。食料自給率も130%近くなので鎖国をしてもビクともしない。凋落するのはエネルギーを高価格で売りつけて国家経済を支えていた中東やロシアなのだ。ちなみにアメリカ国内で流通している天然ガスの価格は日本が中東から買っているそれの6分の1程度である。それでTPPに入れば日本に安い天然ガスを売ってやると言っているわけだ。
エネルギー自給率4%の日本をはじめ持たざる国が一番困るのは、アメリカが内向きになって、鎖国に近い状態になることだ。これはアメリカの凋落を意味するのではなく、それ以外の国の凋落を意味するのである。さてどうする日本。
※週刊朝日 2013年12月20日号