同じ成分で各社が販売する睡眠改善薬(撮影/写真部・大嶋千尋)
同じ成分で各社が販売する睡眠改善薬(撮影/写真部・大嶋千尋)
この記事の写真をすべて見る

 いまやドラッグストアや薬局の一角を占めて陳列されるようになっている「睡眠改善薬」。エスエス製薬が2003年4月に「ドリエル」を発売すると、医師の処方なしで買えることから話題となり、他社も続々と同じ成分の睡眠改善薬を発売した。しかし、パッケージや説明書には日常的な不眠や不眠症の人の服用を禁止する旨が書かれている。

 そもそも睡眠改善薬とはどんな薬なのか。エスエス製薬の薬剤師は、こう説明する。

「風邪薬などを服用した後、眠気を感じた経験のある人は多いと思います。睡眠改善薬は、その風邪薬などに使用されてきた有効成分『ジフェンヒドラミン塩酸塩』の眠くなる作用を利用した薬です」

 風邪薬の「眠くなる」副作用を、主作用にして開発したのが、睡眠改善薬なのだという。ちなみに、睡眠改善薬という名称も、「ドリエル」を発売したときに同社が考案したのだという。

 睡眠改善薬の医学的な作用について、国立精神・神経医療研究センターの精神保健研究所で精神生理研究部部長を務めている三島和夫医師に聞いた。三島医師は、厚生労働省の研究班と日本睡眠学会が今年6月に発行した「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の作成を主導した医師でもある。

「口から入った薬は、胃腸などの消化管で吸収されて血液に入り、肝臓を通過して脳に向かいます。脳には、目覚めるためのホルモンがいくつかあり、その一つに『ヒスタミン』があります。睡眠改善薬の場合、ヒスタミンを受け取るはずの大脳皮質の受容体に、ジフェンヒドラミン塩酸塩がヒスタミンをおしのけてくっつくのです。すると、ヒスタミンがつかないので覚醒できず、眠気が出るという仕組みです」

 目覚めようとするヒスタミンを妨害するこの作用から、ジフェンヒドラミン塩酸塩を使った睡眠改善薬は、「抗ヒスタミン剤」と呼ばれている。現在市販されている睡眠改善薬のほとんどはこれに属していて、1日の成分摂取量も同じ商品ばかりである。

 睡眠改善薬は、「一時的な不眠症状」に使うものであって、病気である「不眠症」にはすすめられていないのだ。

週刊朝日  2013年11月15日号