日本の経済政策を担う両輪は、経済産業省と財務省だ。アベノミクスは成長戦略に重きを置くことから経産省に傾いているという。安倍晋三首相が「経産省寄り」になる理由を、『経済政策のカラクリ』(朝日新聞出版)の著者で財務省出身の「ミスター円」こと榊原英資・青山学院大学教授は次のように話す。

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 なぜアベノミクスが経産省寄りの政策となったのか。理由は二つあります。安倍首相の政治的な経歴と、日本経済が置かれた状況です。経歴については、安倍首相の父、晋太郎元外相の時代までさかのぼります。晋太郎氏は蔵相(当時=以下同)ではなく通産相を経験しました。安倍首相は晋太郎氏の秘書を務めたこともあって、経産省に親近感があるのでしょう。

 一方で、晋太郎氏と首相の座を争った竹下登氏、宮沢喜一氏は蔵相に就くなど大蔵省寄りと見られていました。加えて宮沢氏は大蔵省の出身です。

 日本経済の状況については、こうです。安倍内閣が発足する前年、2011年は東日本大震災に襲われ、景気はどん底にありました。当然のことながら経済成長が主要な課題になります。「経済成長」と言えば、経産省が主導する政策になります。財務省だと、どうしても「財政再建」が前面に出ます。

 実際にアベノミクスの第3の矢は「成長戦略」です。民間企業の投資を後押ししようとしています。

 わたしは、いまのところアベノミクスは順調だと高く評価しています。第1の矢では、黒田総裁が就任して2カ月で日経平均株価が3千円以上高くなり、為替も8円以上円安ドル高になりました。第2の矢でも国土強靭化を掲げて公共事業を積極的に拡大し、日本経済が活性化しました。海外でも注目されています。なにしろ今年、日本の成長率は米国よりも欧州よりも高くなると予測できるからです。過去と比べて高い成長率を達成する大国は日本だけでしょう。

週刊朝日 2013年11月8日号