記憶力や判断力が低下する認知症の診断はどのようにおこなわれるのか。群馬大学大学院保健学研究科教授の山口晴保医師に聞いた。
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認知症かどうかを診断し、認知症だとわかれば、その原因が何かを見つける。それが鑑別診断です。
認知症のような病状でも、実際にはうつ病や総合失調症などの精神疾患だったり、甲状腺機能低下症や糖尿病といった病気によって認知機能が悪くなっていたりする場合もあります。「良くなる病気」かどうかを見分けることが、まず大切です。
認知機能を測るには、MMSE(ミニメンタルステート検査)や長谷川式といった簡易知能検査が有効です。テストの結果で、認知症の進行状況を概ね予測できます。必要があればMRI(磁気共鳴断層撮影)やSPECT(脳の血流の状況を詳しく調べる検査)などの検査を実施し、診断を確定させます。
しかし、認知症を数多く診ている医師なら、問診でおおよその診断がつきます。
たとえば、家族が困って受診してきたケースで、患者さんに「何か困ることはありませんか?」と聞きます。それに対し「何も困っていない。連れてこられた」と答えれば、かなりの確率でアルツハイマー型認知症です。本当は困っていても、人前では「困らない」と取り繕うのがアルツハイマー型の特徴です。年齢を聞くと「私いくつだっけ?」と振り向き、連れてきた家族に質問する「振り向き兆候」も認知症のサインです。
診察室に入ってからの歩き方、声の明るさ、しゃべるスピードなどは、すべて認知症の原因を推測するのに役立ちます。これが実践的な医療と言えるでしょう。
厚生労働省は、モデル事業として「認知症初期集中支援チーム」という取り組みをスタートさせました。認知症状によって日常生活に支障が出ているにもかかわらず、医療や適切な介護を受けていない人の自宅を作業療法士や看護師らが訪問し、それらのサービスにつなげていくものです。国は、認知症の早期診断、早期対応を促進しています。
早期発見には進行を遅らせられるというメリットがありますが、根本的な治療薬がない今、早期発見が「早期絶望」につながるというデメリットもあります。
一方、「怒りやすい」「夜中に活動する」などの、家族が困っている症状は、適切なケア指導で良くなります。家族が「困った」と感じたら、早めに専門医を受診するようにしましょう。
※週刊朝日 2013年10月18日号