わが国では年間約125万人が死亡しているが、その8割は「病院死」。「終の住処」を期待して老人ホームに入居する人は多いが、看取りへの対応は千差万別だ。介護・医療ジャーナリストの長岡美代氏が見た現場とは……。
* * *
松島美智子さん(65)は2年半前、認知症の義母・ヤスさん(当時91)を特別養護老人ホーム「ひまわり」(栃木県栃木市)で看取ったが、今でもその時の様子をはっきり覚えている。
顎を上下に動かす呼吸が始まってまもなく、不規則な息づかいが続き、最後はすうーっと消え入るように息を引き取った。
「ほら、おばあちゃん、涙をこぼしましたよ。これは『ありがとう』の涙だよ」
その場に立ち会った佐々木剛総合施設長からこうねぎらいの言葉をかけられると、美智子さんはため込んでいた義母への思いが噴き出し、涙があふれ出た。
松島さん夫婦はヤスさんを介護するために同居を始めたが、義父の入院や孫の世話が重なり、施設に頼らざるを得なくなった。だが、ひまわりに入居して半年もしないうちにヤスさんの体調が悪化し、医師から余命が短いことが告げられた。
「私の実の母は病院で人工呼吸器につながれて亡くなりましたが、あんなつらい様子は見たくなかった。義母は亡くなる直前まで入浴でき、体調のいい時はベッドから起こしてもらい、他の入居者と一緒に過ごせた。自宅では、そこまでできなかったと思います」(美智子さん)
ひまわりでは入居者が終末期だと診断されると、本人のやりたいことを聞き出し、それをかなえるための支援を惜しまない。ヤスさんは「家に帰りたい」と訴えたため、介護・看護職員に付き添われて何度も一時帰宅し、孫とも食事を共にすることができた。
一方で松島さん夫婦は頻繁に面会に出向き、美智子さんの夫・秀寿さん(68)は、ヤスさんが亡くなる数日前から施設に泊まり込み、傍らに寄り添った。
「老人ホームは入居者の人生の後半を受け持つところ。残された時間に職員はできるだけのことをしたいと考えています。ただ、家族の協力も不可欠です。同じ言葉をかけるにしても職員と家族では意味が違う。家族にとっても悔いの残らない別れにしてもらいたいと思っています」(佐々木総合施設長)
※週刊朝日 2013年10月4日号