「輪転機をぐるぐる回して、無制限にお札を刷る」。自民党安倍晋三総裁は大胆な金融緩和策を掲げる。借金や投資がしやすくなり、景気も上向くという論法だ。過去は効果が薄かったので、今回は青天井でお金を突っ込むというわけだ。だが、慶応義塾大学の小幡績(おばた・せき)准教授は、金融市場を混乱に陥れるだけだ、とその危険を訴える。

*  *  *

 政府が借金して日本銀行がお金をばらまき、人為的にインフレを起こせば、デフレから脱却できる――こうした「リフレ政策」は、政治家に人気があります。安倍氏も「リフレ派」の一人。だけど、これは明らかに邪道です。

 まず、リフレ政策が決まれば、どうなるか。投資家の行動としては、資産を現金から不動産や株式などに移す動きが起きるでしょう。これによって地価や株価が上昇し、いわゆる「資産インフレ」が起きます。金融緩和で通貨の量を増やせば通貨の価値が低下するので、インフレに強いと思われる不動産や株の価値が上昇すると見る向きが増えるためです。逆に、現金に近い日本国債も売られることになります。

 リフレの手段は多くの場合、国債を大量発行します。リフレ政策の決定によって国債が売られやすい傾向にあるときに大量発行すれば、暴落リスクが出てきます。世界の投機家にとっては儲ける絶好のチャンスでしょう。米国をはじめ世界景気は悪いとはいえ、欧州の財政問題は一巡し、足元ではマーケットを動かす大きな材料はありません。欧州の債券を売りまくってオイシイ思いをした投機家は、次の獲物を探しています。それが日本になるかもしれないのです。

 リフレ派の人たちは、「日銀が国債を引き受ければ大丈夫」と主張しています。それこそが世界の投機家の思うツボです。日銀が無制限で買ってくれるとわかれば、どんどん売ってきます。日銀以外が売りに回った場合、日銀が勝てるはずはありません。日銀は国債を買い支えることをあきらめるしかなくなるでしょう。こうなれば、金利の急騰(国債価格の急落)にとどまらず、金融市場は、大混乱に陥ってしまいます。

週刊朝日 2012年12月7日号