2006年12月に特許庁が開発を進め始めた新システム。しかし、今年1月24日、特許庁は「『東芝ソリューション』(東芝の100%子会社・以下、TSOL)がシステムの設計構造を理解していなかった」として、開発を中断した。この開発に投じられた公金は、54億円。一体どういうことなのか。週刊朝日は、TSOLから設計提案書作成を委託されたザクロス社を訪ねた。

 登記簿に記載された大阪府泉南市内の「本店住所」には、3棟の建物が建っていた。門の脇に立つ看板を見ると、「敬和会」という文字の下に、「ザクロス株式会社」という薄くなった文字が読み取れた。

 建物内にはお年寄りとヘルパー、事務員がいるだけで、IT企業には見えない。ザクロス社長の辻野匡隆氏も不在だった。敬和会は辻野氏が経営する介護施設だった。登記簿によると、辻野氏は05年6月にザクロス社長に就任していた。

 辻野氏は特許庁の仕事を請け負う直前の06年10月、銀座8丁目にワン・オン社を設立。同じ住所にあった会社とともに、TSOLの下請けに入った。つまり、辻野氏と関係が深い3社すべてが、特許庁システムの仕事を担ったというわけだ。

 だが、ここで信じがたい事実にぶち当たる。この3社は、これまでシステム構築事業を手がけた実績が、ゼロだったのである。これでは、特許庁の新システムなど作り上げられるはずがない。
 なぜ、こんなことが起きたのか。当事者たちに取材していくと、「政官業のトライアングル」がほんのりと浮かんできたのだった。

週刊朝日 2012年10月19日号