野田政権がようやく原発ゼロに向けたエネルギー戦略をまとめた。目標は2030年代と遠いが、新たなエネルギーに注目が集まっている。驚異のパワーをもつ「藻」も、そのひとつだ。

 生活排水を浄化しながら、油をつくりだす藻―――そんな一石二鳥の存在が注目を集めている。

 9月には、筑波大学と東北大学、仙台市が、東日本大震災で津波の被害を受けた仙台市の下水処理場に、油を生みだす藻の実験プラントを稼働させた。

 このプロジェクトの中心人物は、「オーランチオキトリウム」という藻を発見した、筑波大学の渡邉信教授や鈴木石根教授である。

 この藻は、光合成ではなく、有機物を吸収して増殖できる。ここから搾り出された成分は、重油と同じだという。下水には、この藻の好物である有機物が豊富に含まれている。油をつくるだけでなく、有機物を取り込んで下水を奇麗にできるというわけだ。その潜在能力には驚くばかり。

 渡邉氏は、この藻がつくりだすバイオ燃料について、こう語る。

「バイオ燃料の原料として主流のトウモロコシと違って、藻は食糧にならないので、食糧事情にも影響を及ぼさない。米国は藻の可能性に着目し、ジェット燃料などに活用できないか、これまでにこの分野の研究に1千億円を投資した。韓国は150億円、フランスも200億円の国費を投じている。日本も80億~90億円を投じているが、各研究者がバラバラに研究するなど、他国に比べて、この分野の国家戦略がなかった」

 しかし、震災後の原発事故で新エネルギーに注目が集まったこともあり、この分野の研究に対する政府の姿勢に変化が出てきた。

「ようやく、日本にも藻を活用する研究に戦略性が出てきた。わたしが発見した藻を含めた藻類バイオマス燃料を、10~15年後をメドに実用化したいと考えている。ただ、藻から油分を抽出、濃縮する施設にはコストがかかる。3年後には、生産コストの試算を明確にしたい」(渡邉氏)

週刊朝日 2012年10月5日号