そして東京ドームで引退試合をおこなった獣神サンダー・ライガーがみせた2つの「反らせ系技」も場内を沸かせた。
1つは、『吊り天井固め』。うつ伏せ状態の相手両足を自らの両足でフック。そのまま相手両腕を持って後ろへ倒れ込むように吊り上げる。「シャベ」と呼ばれる、メキシコ系選手がたびたび使用する複合関節技だ。
ライガーとしてのデビュー当時は空中殺法を多用。全盛期からは叩きつけるボム系や掌底などの打撃系が主流だった戦いの中で、リズムを変える重要な技として使い続けた。かつてはタイガーマスクなども使用したこの技には、マスクマンとしての誇りも感じる。
もう1つが『弓矢固め』。同じくうつ伏せ状態の相手両足を組むように固め、同時に首を持ち、自らのヒザを相手腰あたりに当ててひっくり返すようにして反らせながら持ち上げる。
この技はアントニオ猪木の代名詞でもあった。相手の両足を片足でフックして後ろへ倒れ込む『インディアン・デスロック』。そこから素早く移行しての『弓矢固め』というフルコースは「闘魂=猪木イズム」そのもの。ライガーに流れる新日本のDNAが溢れ出るような錯覚に陥った。
格闘技、とくにプロレスでは派手な技に目が奪われがちだ。「にわかファン」など、プロレス入門者などにとっては、見映え良い技がわかりやすい。しかし勝負の分かれ目、そして見どころを左右するのは、レスラーの基本が生かされる技であることが多い。一見地味に見える技こそ、実は一撃必殺技なのだ。
「頭から落とすだけがプロレスじゃない」と語っていたレスラーがいるのもよくわかる。
今年は東京五輪が開催されるが、テクノロジーなどの発達で各競技とも技術に加え、戦術や用具などの進歩が著しくなっている。しかし周辺環境にどのような変化が起きようが、勝負は局面での「一対一」の積み重ねであることに変わりはない。そこでは個々が身につけた基本技術が大きくものを言う。
プロレスも同様だ。会場、そしてテレビ観戦の際には「反らせ系技」や「関節技」など基本に準じた地味に感じる技にも注目してほしい。そこに込められた意味や必要性を考えるだけで、また違ったプロレスのおもしろさ、奥深さなどを感じるはずだ。(文・山岡則夫)
●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。