3月5日、『シレンとラギ』の製作発表が行われました。
出席者は、藤原竜也君、永作博美さん、高橋克実さんに、古田新太、いのうえひでのり、そして僕という新感線組を加えた計6人。
藤原君と克実さんは新感線初参加、永作さんは19年ぶりということで、キャストの挨拶にはまだ緊張の色が残っていました。
製作発表の前に一度顔合わせがあり本読みもしたのですが、ざっと一度読んだだけでしたので、まだまだお互いに関係性を探っているところがあるのでしょうね。
でも、その感じが新鮮でもあり、楽しみです。
新感線は初めてとはいえ藤原君も克実さんも舞台経験も豊富で実力も華もある役者さん。彼らの力を借りて、どれだけ見応えのある芝居が作れるか、期待が膨らみます。
その前の週に日本アカデミー賞の発表があり、『八日目の蝉』で最優秀助演女優賞をとったばかりだったこともあり、永作さんと控え室で会ったときにいのうえも僕も「おめでとう」という挨拶からはじめられたことは嬉しい限りでした。
本当にいい女優さんになったなあと感慨深いです。
製作発表の席でも話題になっていましたが、彼女の初舞台は19年前の新感線とribbonのジョイント公演、『TIME SLIP黄金丸』でした。
彼女がribbonというアイドルグループのメンバーだったことも、今は知らない人の方が多いかも知れませんね。
当時、小劇場界では少しは知名度があったとはいえ、一般的にはほとんど知られていない大阪の小劇場劇団に、人気絶頂だったアイドルグループが出るというのは画期的だったと思います。田辺エージェンシーの大英断ですね。
その頃、新感線の稽古場はまだ大阪にありました。
扇町ミュージアムスクエアというビルの屋上に大きなテントを張り、そこで練習していた。
彼女たちが練習していたのは真冬でした。
テントの屋根があるとはいえ殆ど吹きっさらしです。猛烈に寒かった。こんなところにアイドルがいていいのかという劣悪な環境でした。
当時のいのうえは稽古も厳しく、出来てないところは「ダメ、もう一回」と何度も何度も繰り返させる。しかもなんだかよくわからない山猿のような男達がうようよしている。さぞ心細かったことでしょう。
芝居の内容が、現代の女子大生がタイムスリップし戦国時代の野武士達と出会うというものだったのですが、彼女たちにとってその感覚はフィクションでも何でもなく、「とんでもない所に来てしまった」と思っていたらしいです。製作発表の席でも永作さんが「最初は辛くて反抗的な目をしていた」と冗談半分で言っていました。
あとで聞いた話ですが、毎日ホテルに帰ると寂しくて三人で嘆きあい、唯一の心の支えがレギュラーのラジオ番組のために、週に一度東京に帰れることだったらしいです。
彼女たちにとっては地獄だったかもしれないが、劇団の男達にとっては極楽でした。
二十歳そこそこの可愛い女の子達が、必死にくらいついてくる。
さすが一線のアイドルだけあって、「つらい」と思っても放り投げることはない。内心はともかく稽古は賢明にやっていた。その姿勢がまた愛しくなる。
その公演は劇団員は男優だけの参加になっていました。ある時、陣中見舞いで、劇団の女優である村木よし子が顔を出したら、そこには普段みたことがないようないい顔をした男達がいた。こんなにさわやかな稽古風景はみたことがなかったと、今でも語り草にします。
当時『アサヒグラフ』というグラビア報道誌があり、そこでこの公演が記事になりました。稽古場での出演者の集合写真が載っていたのですが、それを見ると男達は本当に他では見たことがないくらい、いい笑顔をしていました。「そんなに楽しかったんだ」と一目でわかる顔でした。村木の言葉も大げさではなかった。
公演のために東京に向かう新幹線の中で、ある男優がポツリと「終わっちゃったんですねえ」とつぶやいた。
「おいおい、終わってねえよ。今から本番だよ。何言ってるんだよ」と、それを聞いたいのうえは思ったらしいのですが、まあ、その男優にとってはそれが実感だったのかもしれないですね。この本番が終われば、彼女たちと稽古することは二度とない。別れの時は近づいている。ああ、楽しい時間は終わったんだなあ。その気持ちはわからないでもない。
僕もそれを聞いて「そうだよなあ。七人のこびとがどんなに頑張っても、白雪姫は結局王子様のもとに嫁いでいくんだよ。こびとのもとには戻ってこないんだよ」とうなずきました。
この時の思いが、『リトルセブンの冒険』『LOST SEVEN』の発想の大元になるのですが、まあ、それは別の話です。
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稽古は辛かったようですが、蓋を開けてみたらこの公演はとてもいい芝居になりました。
永作さんにとっても、結果的に「お芝居が面白い」と思えるきっかけになったということです。
お互いにとって、とても印象的だった19年前の出会いを経て、さて、今回どれだけのものが作れるか。経験を積み重ねてきた永作さんや他の役者さんに対して、どれだけこちらが応えられるか。
脚本は上がっていますが、稽古で練り上げていく作業が待っています。
頑張らなければなりません。
日本とハワイでそれぞれの専門分野を研究 子育てもしながら日々を生き抜いてきた戦友