■そしてカツベンは現代に続く

周防:活動弁士は、実は時代を超えて現代の映像表現にまで影響を与えているんです。映画の冒頭シーンに、スクリーン横に大人から子どもまで何人も並んで、それぞれの声でかけあいをする「声色(こわいろ)活動弁士」が出てくるんですけど、あの情景を見ると、そうか、活弁は声優の起源でもあったんだ、と思いますよね。それから、テレビの実況中継なんかもそう。古舘伊知郎さんのプロレス実況なんて、まさに、カツベンそのものじゃないですか。

片島:まさにカツベンは「映画の実況中継」ですよね。

周防:僕は、カツベンは日本の語り芸の延長だと思っていますが、こうした語り芸がどれだけ多くの映像表現のなかで使われているか。さらには、映画監督の存在そのものについて考えられたことも、非常におもしろい経験でした。それはたぶん、片島さんという、他の人の発想で始まっているがゆえに、というところもあると思います。

 あとはやはり、この物語自体が活動写真的な魅力にあふれている、というところに尽きるでしょうね。サイレントの時代に、チャップリンやキートンがなぜあんな動きをしていたかというと、音がなく、動きがすべてだったから。だからこそ、ただ歩くだけでおもしろがらせたくて、チャップリンはあんなふうに歩いていた。ただ逃げているだけじゃつまらないから、キートンはあんな過激なことをしていたわけです。今回の『カツベン!』も、動きで魅せてくれる活動写真のもつ楽しさ、エネルギーにあふれた脚本だと思ったので、そこは意識して撮りました。

片島:小説版を読んで、映画を観て、そのエネルギーに触れてほしいですね。この小説には、映画で弁士たちが語った台詞が入っていますから、よかったら実際に声に出してみていただきたいんです。『カツベン!』の世界をより深く楽しめると思います。

 あと、この小説版や映画をきっかけに、皆さんも一度はぜひ本物のカツベンを聴きに行ってみてください。今も活動弁士として現役でやっていらっしゃる方も数十人いらっしゃいますから。語る人によって話の味わいが変わるおもしろさを、ぜひ体験していただきたいですね。

周防正行(すお・まさゆき)
映画監督。『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』『終の信託』などの話題作を監督。『カツベン!』は5年ぶりの新作となる。

片島章三(かたしま・しょうぞう)
演出家・脚本家。周防監督作品にも多く関わり、映画『カツベン!』では脚本・監督補として作品を支えている。このたび、小説版『カツベン!』を執筆。

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