■兄・若山富三郎の死に際し遺骨を食べる
勝新は若い役者や歌手を可愛がっていたというエピソードもあり、行きつけのバーでまだデビュー前のB’zの稲葉浩志と出会い、晩年までライブに足を運ぶなど交流を続けていたエピソードはファンの間では有名だろう。そんなB’zも勝新の死に対して「Shower」という曲を作って偲んだと言われている。
勝新の伝説を綴った数々の書籍や、命日を偲ぶ記事はどれも彼のような豪快なスターが減ったことを指摘する。とくに、最近大きな話題となったピエール瀧のコカイン使用による麻薬取締法違反事件に際して、勝新がマリファナとコカインの所持で現行犯逮捕され、有罪判決をうけた際の“伝説の記者会見”と比較する記事が見られた。
「90年に麻薬所持容疑でハワイの当局に逮捕され、強制退去になったときの『もうパンツをはかない』と言い放ったシーンは有名でしょう。牧歌的な雰囲気がまだ残っていた当時であっても芸能人の麻薬事件ともなれば一大スキャンダル。しかし勝新の豪胆なキャラクターとトボけたコメントで記者たちを煙に巻き、うまく世間からの批判を抑えた。多くのスターが不祥事を起こしたとき、神妙な面持ちで謝罪するのが通例ですが、勝新のようなスターがまったく反省していないかのような、記者をあっと驚かせるコメントをすることで話題が話題をよび、業界関係者の間でも神格化されていったんです」(前出の記者)
死の前年に「下咽頭癌」を公表した際も、「煙草はやめた」と言いながら会見で堂々とタバコを吸ったパフォーマンスや、兄(若山富三郎)、父など肉親の死に際し、納骨式で故人の遺骨をカメラの前で食べるという奇行も世間を驚かせた。
「SNSやネットニュースなどもなかった時代で、記者会見だけが役者やタレントの素の声が聞ける場所でした。勝新は質問にうまくユーモアやジョークを交えて切り返し、茶目っ気たっぷりに答えるので、視聴者に『憎めないヤツ』という印象を与えることができたのだと思います。だから、麻薬事件でもタレント生命が奪われることがなかったんだと思います。今の芸能人は、ただでさえSNSで話題が拡散しやすく、派手に遊び回ると“因縁”をつけられてしまう。コンプライアンスも厳しくなる一方で、CMクライアントから敬遠されても良くないですからね。とくに夜遊びは女性関係のトラブルなどにつながるので、芸能プロ側もかなり厳しい指導を行うようになりました。こうした風潮もあり、最近の役者さんたちもみんな真面目になってしまい、勝新のように派手に遊びまわる人もほとんどいなくなってしまった」(同)
没後20年経ってもいつまでも多くの人の記憶に残り続けるのは、それだけ魅力的で愛されていた人物だったということ。元号も令和に変わったが、これからも破天荒なエピソードの数々は都市伝説のように伝承されていくだろう。(黒崎さとし)