一人の日本人が韓国の金浦空港の旅客機搭乗口付近で3月19日、暴力騒ぎを起こした。ネット上に公開された動画を見ると、この男性が、椅子に座りながら「I hate Korean、I hate Korean」と叫び、空港職員らに物を投げたり、蹴ったり、殴りかかったりする様子が確認できた。これだけなら、一人のネトウヨ日本人が暴言を吐いたというニュースである。話題にはなっても、一過性の騒ぎで終わったかもしれないが、すぐに、この男が実は、厚生労働省の武田康祐賃金課長(47)だということが伝えられ、一気に大ニュースとなった。
これを受けて、厚労省は、20日付で武田課長を大臣官房付とする人事異動を発令した。事実上の更迭である。
■厚労省官僚は安倍政権の体質を表すのか?
このニュースを知ってネット上では、武田氏の行動を賞賛したり、擁護したりするネトウヨの書き込みがなされる一方、「これこそ安倍政権の本質を表す象徴的な事件だ」という安倍批判の声も上がった。
この事件だけで安倍政権の本質がわかるとは思わないが、問題は、安倍総理には嫌韓意識など微塵もありませんと言っても多くの人は首をかしげるだろうということだ。そういう素地がある中での、中央エリート官僚によるヘイト暴言である。これを職務外でしかも酒の上での全く個人的な言動として、軽い処分で済ませるということになれば、安倍総理の嫌韓イメージは増幅されることになるだろう。
しかし、仮に武田氏に厳しい処分が行われたとしても、それで一件落着とはならない。彼の行動で世界中に拡散した「やっぱり安倍総理が嫌韓の差別主義者だから官僚もこんな言動を行うのではないのか」という疑念を消すのは容易ではないからだ。
もちろん、それは考え過ぎだという人もいるだろう。日本ブランド、例えば、最近のインバウンド観光客によって再評価されているおもてなしの心や東日本大震災の時に賞賛された忍耐と和の精神、さらには、主要国の中で唯一第二次世界大戦後一度も戦争をしていないという平和ブランド、禅に代表される奥深い精神性など、日本人に対しては非常に強いプラスイメージがあるから、たかが一人の愚行によってそれが傷つけられることはないという楽観論もある。私も、そう信じたいという気持ちを持っている。
しかし、そうした日本ブランドへの「誇り」を持つことは、実は「驕り」と紙一重である。誇りを強く感じる時こそ、不断の反省が大事だ。