ナンシーさんが亡くなったのが2002年、ちょうど日韓ワールドカップの年です。このあたりから「プチナショナリズム」などという言葉も生まれ、メディアの姿勢にしろ、個々人の発言にしろ、今そこにある政治との距離感を考えざるをえなくなってきた。自分もそうですが、テレビや芸能界を語るときに、そのことを含めて語る必要性が強くなってきたと思うんですね。

小田嶋:当時は軽く断言していたようなことが、ポリティカルコレクトネス的に、ひと言、エクスキューズを書いてからじゃないと書けなくなっているとすると、ナンシーさんがやっていたような断言っていうのは、切れ味がすごく落ちてしまいますからね。「私が思うに」とか、「あくまでも私の偏見ですが」ということを前につけるだけで、とてもつまらなくなってしまう。

武田:コラムという限られた箱のなかで、現状把握に費やす部分は、ナンシーさんのコラムには少なかったわけですからね。

小田嶋:ただ、このポリコレ全盛の時代に、投げっぱなしにしてただで済むかというと、そうもいかないでしょうから、そこはどう処理したんだろうというのは、興味あるところですね。いくつか恥もかいたり、失敗したりもするでしょうけど、たとえば、全然扱わなかった政治ネタや経済ネタを、じゃあ、いじくってみようかとやってみたら、やっぱりナンシーさんじゃなきゃ、こういうものは書けないよね、ということを書いたに違いないと思うんです。

*2018年9月22日、吉祥寺・ブックスルーエ主催トークイベントより

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