モモちゃんは生きていた!!(ソニー銀行のホームページより)
モモちゃんは生きていた!!(ソニー銀行のホームページより)

 1990年代も後半になった頃、まだまだインターネット環境は「ダイヤルアップ接続」が主流だった。今のような常時接続ではなく、メールを受け取るにも送るにも、わざわざ「ピー!ーガー!」という信号音を鳴らせていた。急速に一般家庭にもインターネットが普及を始めた時代だったのだ。

 そのころ生まれたのが、電子メール用ソフト「PostPet(ポストペット)」のキャラクター「モモ」だ。テキストだけのやりとりで味気ない(と思われていた)メールでのコミュニケーションに、花を添えるものだった。ポストペット、通称「ポスペ」は、インターネットプロバイダーである「so―net」のサービスだったこともあり、so―netがシェアを伸ばす一助ともなっていた(実際にはso―netの会員でなくても利用できた)。若い女性たちが次々とso―netでプロバイダー契約を結び、モモちゃんとたわむれた。

 ペットであるモモちゃんは、メールの管理をしてくれる。頻繁にやりとりをしている異性との仲を勘繰ってきたり、ときにはうっかりメールを届けることを忘れる。ユーザーは、モモちゃんが書いている「ひみつ日記」を読んだり、おやつをあげたり、部屋の模様替えをしたりして楽しんだのだ。いまでこそ、スマートフォンアプリでの課金は当たり前となっているが、当時は斬新だった「アイテム課金」も可能だった。

 だが、ブームは去る。ファンシーショップにもモモちゃんのぬいぐるみが並んだ時代はあっと言う間に過ぎ去った。メールはメールなのだ。ときどきメールを運ぶのを忘れるというペットとしてはかわいいことも、メールの本来の役割からすると“不便”になる。添付ファイルが送りにくいという欠点もあった。2000年にはWebMailサービスも始めるが、一部、愛好家の利用にとどまった。

 電子ペットといえば、思いだされるのが「たまごっち」がある。こちらは本来子ども向けに開発されたのだが、OLに大人気となり、生産が追い付かない事態となった。「たまごっち」も「PostPet」も、電子ペットという意味では、媒体は違ったものの同時期に誕生している。1990年代後半は、電子ペットの時代だったのかもしれない。

 「たまごっち」は、一過性のブームに終わることなく、現在もバージョンアップを続けている。顧客の世代交代を繰りかえし、いまは当初のターゲットである女児向けの玩具として一定の地位を築いている。

 一方、「PostPet」はどうだろうか? 実は、しっかり生き残っているのである。05年にリリースされたWebMailクライアント「PostPet 4you」は、10年にサービスを終了しているが、いまだにPostPetのメールドメインは新規受付を行っている。

 では、モモちゃんはいま何をしているのか? なんと、ソニー銀行の「MONEYKit―PostPet」として、ユーザーのお金を管理するキャラクターに“転職”していたのだ。ソニー銀行に口座を持ちサービスに加入すると、モモちゃんが金庫番として手伝ってくれる。一緒にお小遣いを管理してくれたり、貯金をあきらめてしまいそうなときに励ましてくれたりする。もちろん、初期のメールサービスであったようなメールの遅配のように、「振り込み遅れ」などということはしない。お金を扱っているので、そんなことをされても困るのだが、モモちゃんは健在だ。

 純粋なペットだった「たまごっち」は、本来の立ち位置である子どもの友達に定着した。ちょっと大人の女性のかわいいペット・モモちゃんは、最初、電子メールという媒体を利用して普及した。何かペットとたわむれる理由が欲しかったのかもしれない。だが、ネット環境は常時接続が当たり前になった今、メールの送受信に遊び心は必要なくなった。役割を持たされたペットには次の役割が求められたのだ。10年後、モモちゃんが何をしているのか、興味深い。