室井佑月「教育に悪い大人」

週刊朝日
安倍政権
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中
イラスト/小田原ドラゴン

 作家の室井佑月氏は、ヤジを飛ばす安倍首相にあきれ、英語民間試験の延期について言及する。

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 11月7日付の毎日新聞電子版に「やまぬ安倍首相のヤジ 今年だけで不規則発言20回超『民主主義の危機』」という記事があった。

「子供に見せたくないなあ、と思ってしまった。(中略)国会のテレビ中継である」

 という言葉からはじまっている。でもって記事を読み進めてわかったのだが、首相が国会でヤジを飛ばすのは、今年だけでも26回なのだそうだ。

 こんな恥ずかしい首相、いまだかつていた? もう十分に歴史に名が残るわ。なので、辞めてもらって結構だ。この国の子供の教育をがたがたにしてしまう前に。子供の教育によろしくない人が、教育改革をしようとしているってどうよ?

 最近では、2020年度から開始される大学入学共通テストの英語民間試験の導入が延期になった。萩生田光一文部科学相の教育格差を容認する発言が叩(たた)かれて。

 ほんとうは中止にすべきだろう。受験生の居住地域や家庭の経済状況によって格差が生まれてしまうテストなんて。けど、延期じゃ。

 だって、ベネッセの関連団体に、文科省の役人や教育再生実行会議の有識者メンバーが「天下って」いたり、ベネッセの人間が政治家のパーティーにせっせと参加したり(それだけじゃないだろうが)、お友達同士でお金の流れをもう決めているから。

 子供はこの国の宝だ。なのに、教育を金儲(もう)けの材料として考える人間がいる。ほんとうの悪だと思う。

 だいたい安倍首相が教育再生実行会議を立ち上げ、真っ先にやったことは、道徳の教科化だった。国を愛する心を教え、点数をつけたいといっていた。子供の心の中に手を突っ込んで、それが正しいか決めつけ、一斉におなじ方向に向けたがった。

 そんな考えの人たちが今回、大学入試の共通テストを変えて、子供に「思考力・判断力・表現力」を身につけさせたいって矛盾してないか?

「思考力・判断力・表現力」というものは、強制されて身につくものじゃないだろう。むしろ、親の生活が安定し、子供が勉強をしたいならどこまでもできるという、普段の生活の余裕から生まれるものな気がする。

 親に金銭的な余裕と心の余裕があれば、子はいろいろな体験をさせてもらえる。親が生活の中で本を読んだりする余裕があるなら、家には本があり、子供も読むようになる。

 英語に関していえば、子供を留学させる体力がなくなっている親が増えてきていることが問題だろう。

 教師の労働環境の劣悪さも改善できない。大学の研究費もそれで儲かるかどうかで判断する。国が教育にお金かけてくれないから、教える側も子供の親もカツカツで、余裕がない。それがいちばんの問題じゃ。

 格差が広がり、朝も夜も働いてぎりぎりの生活をしている人がいる。子にとって、親はもっとも身近な大人のモデル。生きるのに精いっぱいで、人は「思考力・判断力・表現力」を持てるのか?

週刊朝日  2019年11月29日号