拘束の方法は、手足や胴体にベルトを着けるほか、「車いす用腰ベルト」「ミトン」「つなぎ服」「四点柵」などがある。薬で、行動を落ち着かせたり、眠らせたりすることも。方法や身体拘束の範囲は病院によって異なり、「ミトンや車いすの腰ベルトは身体拘束でない」とする病院もあり、実際の患者数はもっと多いと思われる。

 拘束を受ける患者の数が増えている背景の一つとして、認知症と診断される患者の増加が考えられる。暴力的な言動など認知症の周辺症状への対応が追いついていないのだろう。

 精神科病院には、認知症患者が一定数入院している。14年の精神保健福祉資料では精神科病院の入院患者は約29万人で、うち認知症患者(アルツハイマー型および脳血管性の認知症)は約4万4千人(15.4%)に上る。10~13年の4年間でも、毎年同数程度の認知症患者が入院中で、入院患者の15%前後を占めている。

 ここに、参考となるデータがある。

 杏林大学の長谷川利夫教授が15年、全国11の精神科病院を対象に実施した調査では、隔離・身体拘束を受けていた患者689人のうち約1割(83人)が認知症患者で、拘束を受けた期間は平均2カ月(約64日)だった。

 高齢化社会を迎えた今、家族や自分が認知症になって入院した場合、「縛られる」可能性は十分にある。長谷川教授はこう訴える。

「身体拘束が増加の一途をたどっていることを、社会全体で考える必要があると思いませんか。人間の尊厳を傷つけ、命まで奪いかねないからです」

 身体拘束は身体への影響が大きい。長時間足を動かさず同じ姿勢でいると「突然死」の可能性がある。足の静脈に血のかたまりができ、一部が血流に乗って肺の血管に詰まる。いわゆるエコノミークラス症候群である。

 さらに、1980年代にいち早く身体拘束廃止に取り組んだ、ケアホーム西大井こうほうえん(東京都)施設長の田中とも江さんは、こう指摘する。

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