もう一つ、トランプ政権が対外政策で動いたのが、北朝鮮への圧力だ。

 弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、再び核実験をしようとしている北朝鮮の金正恩政権に対して、トランプ政権は、空爆などの軍事行動も辞さない構えを見せた。米軍の原子力空母を日本海に派遣するなど圧力を強め、朝鮮半島の緊張は一気に高まった。

■「力による平和」はありうるのか?

 シリアを攻撃し、北朝鮮での軍事行動もありうるというトランプ政権の姿勢を読み解くキーワードが、「力による平和」という考え方だ。これは「平和は力によってのみ初めて達成される」(ペンス米副大統領)といった、軍事力で問題を解決することをためらわない政権の姿勢を意味する。トランプ政権は国の予算づくりでも、国防予算を増やす方針を決めた。

 ただ、もし米軍が北朝鮮の核やミサイル施設を空爆しても、米軍基地がある韓国への反撃に北朝鮮が踏み切れば、多くの韓国人だけでなく、韓国に住むアメリカ人や日本人も犠牲になる恐れがある。

 実際に1994年にアメリカが北朝鮮の核施設への空爆を検討したときも、反撃されたときの被害が大きすぎるという理由で断念した。今回も専門家からは「空爆は現実的な選択肢ではない」という指摘もある。

 トランプ政権は、軍事的な圧力と並行して、経済制裁の強化を中国に求めている。また、北朝鮮が核開発をやめるのであれば、北朝鮮との話し合いも排除しないというメッセージも送っている。

 当面は、中国がどこまでアメリカに同調して経済的な圧力をかけるかが焦点だ。

 シリアでも北朝鮮でも、軍事力だけに頼った解決策には、限界もリスクもある。トランプ政権が世界の課題にどれだけ本気で取り組むのか、次の出方が注目される。(解説/朝日新聞GLOBE副編集長・大島隆)

【キーワード:原子力空母】
艦内に原子炉があり、原子力で動く航空母艦。重油燃料の補給をする必要がなく、戦闘機やヘリコプターを載せて長距離を航行できる。5月現在、日本海で活動中のカール・ビンソンは全長約333メートル、幅約77メートル、乗組員は約6千人。一隻で中小国の空軍力をしのぐ攻撃能力を持ち、洋上の「要塞(ようさい)都市」といえる。

※月刊ジュニアエラ 2017年7月号より

ジュニアエラ 2017年 07 月号 [雑誌]

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大島隆
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