野鳥の鳴き声を聞いていると、「何を話しているんだろう?」と思うことがある。でも、ほとんどの人は「鳥が言葉を話すわけないよね」と思い直して、それっきり忘れてしまう。しかし、京都大学白眉センター特定助教の鈴木俊貴さんは、そんな常識にとらわれなかった。大学生のときから15年間、シジュウカラの鳴き声に耳を傾け続け、「シジュウカラ語」の驚きの秘密を明らかにしたのだ。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」10月号の記事を紹介する。

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 鳥の鳴き声には、「さえずり」と「地鳴き」の2種類がある。さえずりは、繁殖の時期にオスが求愛や縄張りを主張するために出す鳴き声で、ウグイスの「ホーホケキョ」が典型的な例だ。地鳴きはさえずり以外の声で、オスもメスも一年中出している。鈴木俊貴さんの研究対象は地鳴きのほうだ。大学で鳥の声の研究を始め、耳を傾けるうちに、シジュウカラは地鳴きするときにいろいろな声を出し、状況に応じて使い分けていることに気づいた。

 シジュウカラは3月ごろに木の空洞に巣を作り、卵を産むとオスとメスでひなを育てる。そのとき、天敵のアオダイショウ(ヘビ)を見つけると、「ジャージャー」という鳴き声を出して仲間に警告するとわかった。カラスやネコを見つけてもそんな声では鳴かない。「ジャージャー」と鳴くのは、ヘビを見つけたときだけなのだ。

「ジャージャー」はシジュウカラ語で、「ヘビ」を意味する単語なのではないか─そう考えた鈴木さんは、実験して確かめることにした。近づいてきたシジュウカラに録音しておいたいろいろな鳴き声を聞かせ、ヘビに見立てた小枝を動かして、どんな反応をするかを調べてみたのだ。すると、「ジャージャー」以外の鳴き声を聞かせたときは、シジュウカラは小枝に近づかなかった。また、「ジャージャー」という音を聞かせても、小枝の動きがヘビに似ていない場合は、近づかない。ところが、「ジャージャー」という音を聞かせて、小枝をヘビのように動かしたときだけは、小枝に近づき、しばらくしてから飛び立った。

 鈴木さんは、シジュウカラのこの行動は、「ジャージャー」という警告の声からヘビの姿をイメージし、周りにヘビがいないかと、動く小枝をヘビと疑い、確認しようと近づいたのだと結論づけた。やはり、「ジャージャー」はシジュウカラ語の「ヘビ」だったのだ。

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上浪春海
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