また、早いうちから特別な練習をしたほうが才能が開花するかといえば、必ずしもそうとも言えないでしょう。大前提として、「天才」とか「才能が開花した」とかは、社会が、あるいは他者が特定の価値観や慣習を基準に勝手に言っているわけであって、本人にとっても、その時が本当の意味で自分の素質に合った最大限のことができているかはわからないのではないでしょうか。大谷翔平さんだって、ひょっとするとこれから先、野球以外の、何か違う分野で別のすぐれたスタイルを見いだしていく可能性があるかもしれない。
そういう意味では、人間は、その時々で環境の影響を受けながら、自分の素質に合ったものを一生探し求めている、と言ったほうが、常に環境に応じて反応している遺伝子の世界から考えると正しいと思います。
自己肯定感の高さや変化のしかたにも遺伝が影響!?
――それぞれの分野で才能を発揮する人は、厳しい練習に耐えることができたり、物事をポジティブにとらえられたりするような自己肯定感、自己効力感が高いように感じます。それにも遺伝の影響はあるのでしょうか。
わたしたちは、勤勉性のようなパーソナリティーや社会性のような、俗にいう非認知能力のような側面と、例えば知能や運動能力のような認知的、身体的な能力を別々のものとしてイメージしがちですが、基本的には、すべて遺伝子が作り出したものですから、個人のあらゆる個性、自己肯定感や自己効力感などのパーソナリティーの部分にももちろん遺伝は影響しています。
自己肯定感や自己効力感については、行動遺伝学において遺伝率は30〜40%くらいというデータもあります。これは一卵性双生児、二卵性双生児のペアの自己肯定感を測るということを5、6年の間隔をあけて調べて、その安定性や変化に遺伝の影響がどれくらいあるかを追いかけた調査です。
そこでわかったのが、ある時点で遺伝的に自己肯定感が高かったとしても、別の時点では低い時期もあり変動することでした。つまり変化のしかたにも遺伝的素質が関わっているのです。遺伝というと一生変わらないと思われがちですが、そうではないのです。
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