「天才」と呼ばれるような卓越した才能を生み出す遺伝子配列はたしかに存在していると思いますが、そのバリエーションは膨大な数の遺伝子の独特な組み合わせによるものだと考えられます。
――どんな遺伝子なのかはわからないのですね。
はい、少なくともいまのところは。そもそも、遺伝子の配列は一人ひとり違ううえに、その伝達のしかたに何か規則性があるわけではなくランダムな組み合わせになるわけで、「こういう遺伝子配列があったから天才と呼ばれるような才能を開花させた」というよりは、「その人独自な何らかの独特な遺伝子配列があった」くらいのイメージがいいと思いますね。
ただ、天才と呼ばれるような偉業を成し遂げた人、誰かが「天才」と呼ばなくても何かしらの得意分野が生まれる背景には、脳が、その事柄に対し能動的に予測する力が大きく関わっていると考えています。つまり、「こうすれば上達する」というようなことを、教わらなくても自分でわかってしまうというか、知る前から自分の中でイメージできてしまう。そういう脳の配線を持っていることで、ものすごいスピードでより高いレベルまで進むことができるのではないかと考えられます。脳の配線も遺伝子に強く影響を受けていますから、「天才」と遺伝の関係を考えるうえで、注目しているところですね。
ただ、「天才」の遺伝子を語るときに忘れてはいけないのが、「天才」といわれる才能を支えている背景には、多くの人たちの価値観や知識、協力があるということです。「天才」と呼ばれている人も、すべての能力が高いレベルでできるわけではなく、やはりでこぼこしていて、練習しなくても一発でたどりつけてしまう部分と、学習や練習によって補うべき部分が交ざり合っています。
名コーチとの出会いや早期からの取り組みが大事なのか
――有名なスポーツ選手や、音楽家などには、名コーチと呼ばれる存在の人が必ずいます。やはりそういった人に早い時期から教育してもらうと、遺伝的素質が伸びるのでしょうか。
たしかに名コーチと呼ばれるような人は、仮に自分自身ではできないとしても、これまで見たり教えてきた膨大なパターンの中から、目の前のプレイヤーがその時は遺伝的に打ち止めとなっている部分、トレーニングによって補えばまだまだ上のレベルへ持っていけるという部分がわかるのではないかと思います。
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