――学力に対する遺伝の影響は年齢によって変化しますか?

 家庭環境の影響を受けやすい幼少期や小学校低学年の時は、遺伝的要因だけでなく、家庭の環境要因もかなり大きく学業成績に影響を与えることがわかっています。しかし年齢が高くなるにつれ、家庭よりも、学校や塾、友人関係など外からの影響が強くなり、それぞれが持つ遺伝的要因の影響が強くあらわれてくるといえるでしょう。

算数・数学の成績は、他の教科に比べると遺伝的要因は少ないと言われる

――編集部には算数のつまずきについて悩みが寄せられることが多いのですが、算数・数学の得意・不得意にはどのくらい遺伝が影響しているのでしょうか。

 学力と遺伝の影響について聞かれることは多々あるのですが、ピンポイントに「算数・数学」について質問されるのは初めてですね(笑)。ただ、算数、数学の遺伝率は低いというデータはあります。

――低いのですね。それはなぜですか?

 これは国や文化によって違っていて、アメリカやイギリスなどに比べて、日本は少ないというデータがある、ということです。ここからは類推が入っているのですが、算数・数学の領域、例えば割り算や微分積分などは、日常的にはあまり使わない能力を必要とするものが多いですよね。

 一方、国語や理科、社会などで使う能力は、日常生活の中で、自然と結びつくことが意外とあるんです。

 例えば好きな本やマンガを読んだり、野原で美しい花を見つけて言葉で表現することは国語で使う能力と同じだったり、昆虫を見つけて生態を調べることは理科で使う能力だったりする。いろんな土地に旅行に行って見聞きしたことや、テレビで歴史の登場人物の物語を見たり、そういった環境がその人が持っていた遺伝的要素と反応し合うことで、一般的な知識として国語や理科、社会などの成績に影響することも多い。

 そう考えたとき、算数や数学は、日常生活の中ではなく、日本では例えばそろばん塾や公文などでテクニックを覚えていくという環境的要因によって、成績が上がることが比較的多い。よって、そういう環境要因の家庭による違いもほかの科目より影響して、相対的に遺伝的要因は少なくなると考えられます。

次のページへ算数については早い段階から、学習環境を作ったほうが良い?
1 2 3 4