遺伝子は、非常に複雑かつランダムに受け継がれるもの

――父親も母親も苦手だった教科なのに、子どもは得意というのはどういう現象が起きているのでしょうか?

 そもそも「遺伝」とは、どんな遺伝子の組み合わせを持っているかに影響されるわけですが、遺伝子はA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種の塩基の配列からなっていて、私たち人間には30億もの膨大なATCGから作られる配列が存在しています。その配列の一部が「AUU」(イソロイシンというアミノ酸になる)なのか、それとも「ACU」(トレオニンというアミノ酸になる)なのかなど、配列の違いによって個人差が生まれるのですが、自分がどんな遺伝子配列を持つかは、父親と母親からどんな遺伝子を受け継いだかで決まります。

 ただしそれはマージャンのパイのように、父親が持っている遺伝子の半分と母親が持っている遺伝子の半分が受精の段階でランダムに分かれて新たに組み合わさり、そこから子どもの独自な遺伝子の配列が決まります。さらに、両親もそれぞれの親、さらに親の親も同じくランダムに遺伝子を受け継いできていますから、家系の中には代々似ているところもあれば、似ていないところもあるのは当たり前のことなのです。

「遺伝」と言うと、「親と似る」とか「一生変わらないもの」ととらえられがちなのが非常に歯がゆいところで難しいところです。遺伝子の配列は一生変わることはありませんが、その遺伝子のどの部分がいつ、どのように発現し、個々のさまざまな側面であらわれてくるかは、まだよくわかりません。「遺伝」とは、親子の間でも異なったその人独自のもので、環境に対して一生反応し続け、ダイナミックに変化し続けるというイメージを持って「遺伝」の世界について知っていただけたらと思います。

(取材・文/神武春菜)

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神武春菜
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