――ということは、算数については早い段階から、学習環境を作ったほうが良いのでしょうか?
それが、そうとは言えません。幼少期や小学校低学年の早い段階から、算数・数学に必要なテクニックを訓練することで、いい成績をとることができることもあるでしょう。ただ、そういったテクニックだけでは算数や数学の世界を全て理解することはできませんよね。
例えば微分積分、素数など、それらの世界をどのくらいイメージできるか。これはテクニックでカバーできるというより、本人の中にもともとある論理的推論とか抽象的思考とか仮説を生み出す能力に関わる遺伝的要素が大きく影響していると思われます。中学生くらいまでは、公式や解き方の定型パターンを覚えれば解ける問題も多いので成績が良かったのに、高校生くらいから授業についていけなくなってきたという場合は、行動遺伝学からいえば、より数学的な論理構築力に関しては得意かといったらそうとは言えないかもしれません。
――反対に、苦手だと思っていたら、実は得意だったという場合もあるのでしょうか。
もちろんあります。私の友人で中学生のときは数学についてそれほど得意でなかったけれども、高校になって急にコツをつかんで得意になり、現在はコンピュータの分野で世界的にも大活躍している人がいます。
彼にどんな変化があったのか取材したところ、彼いわく、自分は、ある事柄に対して、順番に系列的にものを追って理解していくのは苦手だったけれど、その全容を頭の中で一気にイメージして理解するというのは得意だったというんです。
ここからは憶測ですが、中学生のころと高校生のころで、数学を理解するときの方法が自ずと変わっていったのかもしれませんし、日常生活の中でさまざまなことを経験し新たな脳のネットワークが作られ、得意なほうの力が発揮されてきたのかもしれません。どんな環境を用意すれば成績が伸びるかどうかは、やってみないとわからないのですが、少なくとも、そのときの成績が悪かったからといって、「苦手」と決めつけるのは早合点といえるでしょう。
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