しかし、さらに前の時代の氷期まで調べると気候は安定とはほど遠く、極端な高温や低温、極端な大雨や干ばつがめまぐるしく繰り返されたり、気温が10年以内に5℃以上も跳ね上がるのがふつうだった。中川さんは、こういう気候を「暴れる気候」と呼んでいる。

図5 グリーンランドの厚い氷(過去数万年に積もった雪からできた)からわかった過去の平均気温の変化。氷期の間は、気温の変動が激しく、気候が暴れていたことを示している。1万2千年前以降は、気温の変動が小さく安定している。これは、農耕が始まった時期と一致する。水月湖の年縞のデータをもとに、こうした研究がさらに進むことが期待される

 ところが、約1万2千年前になると暴れる気候の時代は終わり、安定した気候に入った。この変化が農耕を可能にしたと中川さんは考えている。次の年の同じ時期の天気も前の年と似ている可能性が高くなり、作物の栽培が可能になったからだ。

 現代の私たちにとっての問題は、安定した気候の時代がいつまで続くかだ。近い将来、地球温暖化を引き金にして、「暴れる気候」の時代が訪れる可能性も否定できないと中川さんは言う。そんな時代が来たら農業が大きなダメージを受けるだけでなく、経済も混乱して、今のような豊かな社会の土台が大きく揺らぐかもしれない。

「地球温暖化がこの先どのような気候変動や災害をもたらすのか、より正確に理解し予測するためにも、水月湖の年縞をはじめとする過去の気候を詳しく知る研究が欠かせません。私たちは、気候の専門家だけでなく、考古学や歴史、年代測定の専門家とともに、その研究に全力で取り組んでいきます」

(文/上浪春海)

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