そもそも面白いことは、本やテレビ番組といった創造物の中だけじゃなくて、日常の中にもたくさんありますからね。例えば、バイト先の店長はすごく怖いんだけど、お客さんにあいさつするときは、なんかものすごく小刻みに頭下げてるな、とか(笑)。

よく考えれば野球は“謎の儀式” 餃子を持って走ったっていいはず

――そういう視点こそ、田中さんのシュールな作風の原点という気がします。

 僕自身、シュールって何なのか、今ひとつわかっていません。ただ、今思い返してみると、子どものころから絵本でも漫画でも、いわゆるいい話とかハッピーエンドの話より、「なんや、これ?」とか「いくら悪者を退治するといっても、これはやり過ぎやろ」みたいな、ちょっと違和感を覚える物語とかよく意味がわからない物語のほうが好きでしたね。そもそも僕自身、これまで散々「お前が考えていることは、意味がわからない」と言われてきた人間でもあります。でも思うんです。「じゃあ、意味のあることって、なんだい?」って。

 僕は学生時代野球部に所属していて、いいプレーができないと、よく監督に怒られました。でも怒られながらふと思うわけです。「そもそも野球って、何なんだ? 何の意味があるんだ?」って。棒で丸いもんを叩いて、地面に置かれた四角い板の上を踏んで走り回るっていう謎の儀式みたいなもののために、今、自分はむちゃくちゃ怒られている。なんだそりゃ?と思うと、何だか面白くなってくるんですよ。

――わかる気がします(笑)。

 あんな訳わからんもんがスポーツとして認められるなら、餃子を持ってバーっと走って、相手の陣地内にあるタレにちゃんとつけることができたらポイントが取れるっていうスポーツがあってもおかしくないですよね(笑)。

 スポーツに限らず、別に意味があることなんて、この世の中には多分ないというのが僕の考え。だから一見ナンセンスとも思えるような物語に魅かれるし、自分の作品にもそういう思いが表れるのかもしれません。自分がしていることに意味が見出せないと悩んだり、心がギュッとなっていたりする人には「意味のあることなんてどこにもないから、楽しく生きとったらええよ」と言いたいです。

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