最近では、RSウイルスに対する新しい予防戦略が登場しました。それが「ベイフォータス」(一般名ニルセビマブ)と、組み換えRSVワクチンである「アブリスボ」です。これらの新たな予防薬は、それぞれ異なる特徴と役割を持ち、より効果的な予防手段を提供しています。
ベイフォータスは、RSウイルスに特異的に作用する「長時間作用型ヒトモノクローナル抗体」で、特に生後初めて、または2回目のRSウイルス流行期に、重症化リスクの高い新生児や乳児が保険適応となります。日本では2024年3月に承認されました。特徴はなんといっても月1回投与するシナジスと異なり、1回投与で5カ月も効果が持続することにあります。
米国疾病対策センター(CDC)が発行する罹患率と死亡率の週刊リポート(Morbidity and Mortality Weekly Report)で報告された2023/24シーズンの調査データの中間解析では、ベイフォータスを1回投与すると、8カ月齢未満で予防接種を受けた乳児のRSウイルス感染症による入院を90%抑制する効果があることを示しています(#1)。なんと9割も抑えられるとは驚きですね。
また、スペインの研究結果を報告した医学誌ランセットのプレプリント(査読前の公開)では、RSウイルス流行期の開始前に出生し、ベイフォータスの接種対象の乳児では、接種していない乳児に比べ、RSウイルス感染症による入院とICU入室がそれぞれ87.6%および90.1%減少しました(#2)。
ベイフォータスは体重に応じて、体重5kg未満の新生児及び乳児には50mg、体重5kg以上の新生児及び乳児には100mgを1回筋肉内注射します。投与量がある程度決まっているのも、間違いが起こりにくいので良いですね。
感染症を8割抑える、妊娠中に接種する予防薬
アブリスボは、組み換えDNA技術を用いて製造されたRSウイルス抗原を含むワクチンです。このワクチンの特徴は妊娠24~36週の妊婦を対象にしていることです。これは2024年6月から日本でも接種開始となります。お母さんの体内でRSウイルスに対する中和抗体を高めることで、それが胎盤を通じておなかの赤ちゃんに移行して、赤ちゃんが生まれてからの下気道疾患の重症化を予防します。妊娠24~36週の妊婦に1回0.5mLを筋肉内に接種する形となっています。
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