――なるほど、愛を言葉で伝えるというのは、夫婦関係にも応用できそうです。

 そうなんです! 「この人と一緒にいることに意味があるのだろうか」と逡巡したとき、妻を引き留めるのは言葉だと思う。私は、夫との離婚を考えるたびに、一緒に暮らし始めた晩、夫がつぶやいた一言「これでもう一人じゃないんだ」を思い出して、踏みとどまってきました。

 そもそも妻に言葉をちゃんとくれる夫とは、一緒にいても孤独だなんて感じないはず。「キミと一緒にご飯を食べるとおいしいな」とか、「一緒にいると星がきれいに見えるよ」で十分。とっさに別れを考えたときも、思い出すのは言葉ですよね。夫にうんざりしたその瞬間、誰も「そういえば新婚旅行の時に美味しいデザートを分けてくれたな」とか、「結婚指輪が高かった」なんて思い出さない(笑)。

 でも、男の人の多くは、愛を語るのが苦手ですよね。それで『妻のトリセツ』を書いたわけです。なぜ愛を語れないか。それは親が愛を言葉で伝えていないからじゃないかしら。脳だって、入力されていないこと、つまり、まったく体験したことがないことは出力できません。聞いたこともない言語で話しかけられたって、理解するのにも限界があるでしょう? 人工知能だって当然、相手を思いやる優しい言葉は、入力しなければ言えません。息子が将来、女性とのコミュニケーションに困らないように、私がかけてほしいと思う優しい言葉を幼少期からあふれるほど与えました。

――「母も惚れるいい男」とはつまり、「妻に好かれるいい夫」に育てることなのですね。

 その通り。私が与えた愛情は、息子が将来のおよめちゃんに返してくれたらいいなと思いました。彼にとってそれが一番の幸せだから。妻に好かれるためには、もう一つポイントがあります。会話には「共感型」と「問題解決型」という2種類があって、多くの男性の脳が得意とするのは後者。目標に対して問題点や課題を見つけ出し、ゴールを急ぐ。だから会話は、妻の悩みに対し、「そうだよね、つらかったよね」といった共感をせずに、いきなり相手の弱点を突いて「そんなに嫌ならやめれば」となって、妻を失望させるわけです。

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