■「助けてあげる」だけの存在ではない

 中平さんは「電車や街で、障害者や困っている人を見たとき、声をかけられるようになった」と話す。将来は、世の中のいろいろなことを発信するテレビ局に勤めるのが夢だ。腰原さんもバスの中で、床に小物を落として大声を上げている人に遭遇したとき、それを拾って「大丈夫ですか」と、渡すことができたそうだ。

「卒業生が訪ねてきたとき、よく『高校には、中学のときのような自閉症の友だちがいなくてさみしい』と口にします。自閉症児との学校生活が、あたりまえのことになっていたのだと思います」(菊地校長)

 大学4年になったある卒業生が母校を訪れたのは、就職活動から生じた疑問がきっかけだった。企業説明会で一度も自閉症の人に出会うことがなかった。中学校のとき一緒に過ごした同級生は、いったいどこで働いているのか――。その疑問をきっかけに、卒業論文のテーマを「発達障害者への就労支援」とし、母校の先生に話を聞きにきた。在校生には起業して「障害者が働く会社をつくりたい」という将来像を描く生徒もいる。

「昔に比べると障害に対する理解度は上がっていると思いますが、武蔵野東の生徒が社会に出て経験を広めてくれれば、もっと自閉症の人たちが過ごしやすい世界になると思います」(前出のAさん)

 菊地校長も言う。

「健常児の生徒が自閉症児の生徒から得るものは大きい。自閉症の生徒は学校生活の中に欠かすことのできない存在感があり、決して『助けてあげる』だけの存在ではありません。多感な時期に同じ目標に向かう仲間として過ごす。そういう経験をした彼らが社会人になったとき、誰にとっても暮らしやすい共生社会をつくり上げる一助になると信じています」

(文/柿崎明子)

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ライター 柿崎明子
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