数学オリンピック財団事務局長の宮下義弘さんが、国際数学オリンピック出場選手について次のように話してくれた。

「数学が大好きで、趣味を楽しんでいる、ゲームに熱中しているといった感覚でむずかしい問題に取り組んでいます。かといって、数学だけが優れているというわけではありません。世界大会では、英語ができるので取材のマスコミや他の国の高校生とも会話している人や、世界史や地理が大好きで開催地の国の知識にとても詳しい人もいます」

 国際数学オリンピック出場選手の進路は、おおまかにいえば東京大が9割ほどで、ほかは東京工業大、京都大、早稲田大など。2013年以降は東京大6人、東京工業大1人、京都大1人。東京大の内訳は理科I類4人、理科III類2人となっている(実数)。

 もっとも、数学オリンピックのための勉強が大学受験に直結するわけではない。宮下さんが解説する。

「数学オリンピックで出る問題は、高校の授業で学ぶ数学とはかなり違います。大学入試で出題されるタイプの問題でもないので、受験に役立つというわけではありません。それでも、選手たちは、文系、理系まんべんなく勉強がよくできるので、ふつうに受験の準備をすれば東大に受かってしまいます。みんな頭がいいんでしょうね」

 一方、最近の大学入試では、数学オリンピックなどの科学オリンピック上位成績を条件に加える大学が増えている。宮下さんは解説する。

「大学の推薦入試などで有利になるからと、高校の先生が生徒へ数学オリンピック出場をすすめるようになり、学校一括で申し込むケースが多くなっています。難関大学の推薦やAO入試で科学オリンピック出場が出願要件の一つになり、応募者が増えているように思います。実際、東大、京大いずれも数学オリンピック出場選手が、推薦入試、特色入試で合格しています」

 もっとも、推薦をまったく考えず、はじめから一般入試を受験する選手もいる。学校関係者によれば、推薦の手続きをとるのを面倒くさがるから。あるいは東京大や京都大に推薦や特色入試で入学してから他学部に転部したり、留年したり、あるいは退学したりすると、学校の後輩が次に推薦で受けにくくなって迷惑をかけるのでは、と思ってのことだとか。

 なかにはこんな変わり種もいた。国際数学オリンピック出場後、東京大に一般入試で入学したがまもなく退学し、京都大の特色入試(推薦)で合格した数学天才である。京都大からすれば、東京大をソデにしてやってきた。大いに歓迎したはずだ。

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