長尾さんは、2013年10月にがんで亡くなった。享年31歳。「胞巣状軟部肉腫」という、筋肉にできる珍しいがんである。1000万人に1.5~3人の確率でしか発症しない難病だ。長尾さんは、15歳のときに発病した。つまり、開成から東大へ進む過程で闘病生活を送っていたのである。
2009年、長尾さんは結婚する。お相手は、囲碁インストラクターでNHK囲碁講座にも出演していた押田華奈さんだ。長尾さんは東大時代に囲碁部に在籍。華奈さんは慶應義塾大の囲碁部で活躍していた。囲碁を通して2人は知り合う。
難病である長尾さんと結婚するにあたって、双方の家族は反対したという。それでも一緒になった。その理由を華奈さんはこう話している。「決して偉ぶらずに謙虚で優しい性格だったので」「彼との付き合いは長く掛け替えのない存在ですし、もし私が病気で彼が元気でも、きっと結婚してくれるだろうなと」(ウェブサイト:NEWS ポストセブン 2014年1月5日)
2010年に長男の想太くんが生まれる。しかし、長尾さんの病は進行していた。2013年8月、当時長尾さんはフェイスブックにこう書き込んでいた。
―――寝たかなぁと思ってたら息子がいきなり叫んだ。
「そうちゃん大きくなったらお医者さんになる!!」
(えぇーーー!)「どうして?」
「だってパパの病気治すから!」
「そうなんだ。でもいっぱい勉強しないとお医者さんになれないよ?」
「いっぱい勉強するー!勉強好きー!!」―――
長尾さんが亡くなったあと、華奈さんは取材でこう答えている。
「主人が亡くなったあと、想太は計算ができるようになりました。指を折りながらの簡単な足し算だけど」(毎日新聞2013年12月27日付夕刊)
お父さんの遺志を受け継いでほしい。
(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
朝日新聞出版