地元の魅力を、若い人たちにこそ知ってほしい──。地方創生を意図したゲームが静かな広がりを見せている。課題はあるが、情熱と可能性は大きい。AERA2021年9月6日号の記事から。
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主人公を先頭に、二次元のドット絵で表現されたフィールドを歩く。モンスターを倒して街を巡り、魔物がはびこる世界を救っていく──。
今年3月31日にリリースされたスマホゲーム「キズナファンタジア 海辺の国の大聖典」は、まさに昔ながらの王道RPG(ロールプレイングゲーム)だ。クリアにかかる標準的なプレイ時間は25~40時間程度で、無料アプリながら往年の商業ゲームと比べても遜色ない。
ただし、このゲームは王道RPGとは違った一面も持つ。ゲームを紹介するときに使われるのは、「石巻市地方創生RPG」の言葉。冒険の舞台は宮城県石巻市の市域そのままだ。実在する街や集落を巡り、市内の名所も重要な舞台として多数登場する。ストーリーラインには市に残る伝説もちりばめられ、プレイしながら実際の石巻を巡っているようにすら感じられる。
このゲームは、石巻市が市の事業として制作した。産業部観光課の大和友大朗(やまとゆうたろう)さんは狙いをこう説明する。
「ゲームを通して若い人に地元に興味を持ってもらう、そして市外の人にも石巻を知ってもらい、誘客を図ることが目的です」
■モンスターは市の名物
石巻は県2位の人口を有するが、高校を卒業すると街を出る人が多い。若者からは、「石巻は何もない」という言葉も聞く。観光課への問い合わせも、ほとんどが中高年層からだった。ゲームの力で若い世代に訴求し、郷土愛の醸成と観光誘致につなげる。まさに「地方創生」を目指したRPGなのだ。
きっかけは市の政策コンテストでの地元高校生の提案だった。商工課の高橋華実さんは言う。
「石巻は漫画家・石ノ森章太郎ゆかりの地で、これまでもマンガを生かした街づくりを進めてきました。ゲームを使った街づくりは地域にあった取り組みで、若い人の声を政策に盛り込めた点も意義のあることでした」