「ローカルディア・クロニクル」の主要登場人物は6人(画面/井桁屋提供)
「ローカルディア・クロニクル」の主要登場人物は6人(画面/井桁屋提供)

 モンスターは市民らから公募し、348点の応募から31点を採用した。市の名物をモチーフにしたユニークなものが多い。

 近年、地方創生などの地域課題にゲームを生かそうとする取り組みが少しずつ広がっている。ゲーム教育ジャーナリストで、東京国際工科専門職大学講師の小野憲史さんはこう解説する。

「社会的な目的で開発されたゲームを『シリアスゲーム』と言いますが、地方創生ゲームもその一ジャンルです。RPGのほかにも、VRを使った観光ゲームなど様々な事例が見られます」

「キズナファンタジア」の開発を担当した井桁屋(いげたや)(さいたま市)は、本業の輸入雑貨卸業の傍らRPG開発に取り組んできた。従業員3人の小さな会社だが、開発した地方創生RPGは「キズナ~」で5作目になる。

■「偉人」にアクセス急増

 1作目は、主にさいたま市が舞台の「ローカルディア・クロニクル」(2016年)だ。創業10周年を記念し「さいたま市の会社として市のためになるものを」との思いで企画した。開発費用はすべて持ち出し。社長の高久田(たかくだ)洋平さんは言う。

「さいたま市は合併市ゆえか、市民の郷土理解が薄いように感じていました。私も市の10区すべてを挙げることができなかったし、市もそこを課題に感じていると聞き、ゲームでお手伝いができないかと考えたんです」

 高久田さんは図書館に通い詰めて資料を読み込み、街を歩き回ってストーリーを練り上げた。開発期間は1年半に及んだ。

ゲームで冒険する世界はさいたま市の実際の市域とほぼ同じ形をしている。ほかに川越市も舞台になっている(画面/井桁屋提供)
ゲームで冒険する世界はさいたま市の実際の市域とほぼ同じ形をしている。ほかに川越市も舞台になっている(画面/井桁屋提供)

 さいたま市に残る民話や伝説、偉人をストーリーに組み込んだゲームはSNSで話題になり、38万回以上ダウンロードされている。実際に現地を訪れ、位置情報システムを使うとアイテムが手に入る機能や、実店舗で利用できるクーポンも組み込み、位置情報機能は延べ約4万5千回以上使われた。ゲーム中で重要な役割を果たす江戸後期の儒学者・西沢曠野(こうや)は飢饉から与野を救った偉人ながら、「市民でもほぼ知らない」(高久田さん)忘れられた存在だったが、彼を紹介する市のホームページにはアクセスが急増している。

■効果測定の指標は

 高久田さんによると、当初はゲーム開発に継続して取り組む考えはなかったという。だが、「ローカルディア・クロニクル」が評判を呼び、同じ埼玉県の行田市から声がかかった。こうして開発された「言(こと)な絶(た)えそね 行田創生RPG」は、自治体が制作した本格RPGとしてはおそらく全国初の取り組みだ。井桁屋ではその後も、淡路島や千葉県佐倉市を舞台にしたゲーム開発を請け負ってきた。

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オリジナルゲームとしては「快挙」