改正刑法が、今国会で可決・成立した。大きな一歩と評される。ただ、特に子どもへの性被害を防ぐには課題が残る。何が必要か。AERA 2023年7月3日号の記事を紹介する。
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小学5年、11歳の時、性被害を受けた。相手は教育実習中の大学生だった。
「今も時々、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が発症します。過呼吸が起き、そのあとでずっと落ち込みます」
首都圏に住む70代の女性はそう話す。
その日は夏休みで、女性は自宅近くの大学の夏期講習に参加した。そこでみんなが別の部屋に移動する際、教育実習中の大学生から、「話があるからあなただけ残って」と言われた。しかし、その後のことはほとんど覚えていない。
■性暴力は「魂の殺人」
記憶として蘇るのが、大学生の膝の上に座らされたこと、窓の外の木々が太陽の光を反射してキラキラ揺れていたこと──。そのぐらいだという。
「自分を守るために、記憶を一時停止させるフリーズをしていたのだと、大人になって精神科医に教えられました」
人の心身に深い傷を与え「魂の殺人」と呼ばれる性暴力。それを罰する改正刑法が6月16日、成立した。
最も大きな改正点は、「強制性交罪」と「準強制性交罪」が統合し、罪名が「不同意性交罪」に改称されたことだ。現行刑法は、「暴行・脅迫」を用いたら「強制性交等罪」、酒や薬などで相手の「心神喪失・抗拒不能(抵抗できない状態)」に乗じた場合は「準強制性交等罪」が成立する。しかしいずれも「被害者の抵抗が著しく困難」でないと成立しないとされ、基準の曖昧さから無罪判決が相次いだ。
改正刑法では、両罪を統合し、被害者が「同意しない意思を示すことが難しい場合」も処罰できるようにした。具体的に「暴行・脅迫」の他、「アルコールや薬物の摂取」「恐怖・驚愕」「経済的・社会的地位の利用」──など八つの行為や状況を初めて条文で列挙した。