AERA 2023年5月15日号より
AERA 2023年5月15日号より

 この10年間で開発が進められてきた新型ロケットの初打ち上げが相次いでいる。しかし、軌道に到達しないロケットが続出。宇宙開発における“下剋上”の時代到来か? AERA 2023年5月15日号の記事を紹介する。

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 スペースX社が2010年に超低コストな再利用型ロケット「ファルコン9」の運用を開始したことにより、世界のロケットメーカーはローコストな新型機を新規開発する必要性に迫られ、この10年間はその実現に取り組んできた。同時に、ウクライナ戦争の勃発でロシアのソユーズロケットの使用が制限されたことでロケット不足が続き、その需要は高まっている。

 ただし、各社におけるほぼすべてのプロジェクトは遅延。ボーイング社とロッキード・マーティン社の合弁会社であるULA社の「ヴァルカン」、ジェフ・ベゾス氏が率いるブルーオリジン社の「ニューグレン」、ESA(欧州宇宙機関)とアリアングループの「アリアン6」など、当初予定ではすべて2021年以前に飛ぶはずだったが、そのタイムスケジュールは幾度もスライドされてきた。業界きっての老舗企業ULA社においては売りに出される可能性さえ噂されている。

 また、宇宙開発バブルともいえる状況のなかで数多くのベンチャーが新規参入を果たしたが、彼らは資金が枯渇するまえに新型機を成功させる必要に迫られている。しかし、新型ロケットの開発がいかに多難であるかは近年の失敗事例を見れば明らか。離陸時のエンジン点火の失敗、予定軌道への投入失敗など原因はさまざまだが、成功が先延ばしされれば急速に資金を失い、プロジェクト継続が難しくなる。それは国策事業もベンチャー企業も同様だ。

 その一例がリチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・オービット社だ。同社はロケットに人工衛星を搭載し、それを航空機747から空中射出することで軌道投入する。しかし、今年1月9日(UTC=協定世界時)、イギリス宇宙局などから依頼された計7基の人工衛星の軌道投入に失敗。直後に資金が尽き、4月4日には従業員を解雇して操業を停止。日本で言うところの民事再生法(チャプター11)が申請された。それ以前、ブランソン氏はヴァージン・アトランティック航空も所有していたが、コロナ禍のあおりを受け、20年8月に米連邦破産法の適用を申請するなど苦しい状況にある。

 この10年間、多くの新型ロケットの開発が発表され、若い民間企業が登場し、新時代の到来が感じられた。しかし、夢はさめつつある。未来に投資してきた巨額な資本が実利を求めはじめれば、群雄割拠する宇宙開発企業は整理され、限られた勝者だけが後に残る可能性が高い。(編集、ライター・鈴木喜生)

AERA 2023年5月15日号より抜粋