ありがたい愛情ある褒めも慣れるべからず(イラスト:サヲリブラウン)
ありがたい愛情ある褒めも慣れるべからず(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 先日、新卒で入社した会社の同期4人と5年ぶりに集まりました。4人のうち、私を含む3人は退社し、ひとりは専業主婦に。もうひとりは外資系企業で働いています。

 会社に残った同期はグングン昇進して部長になりました。本人は「部長の上に何人も上司がいて、思っているようなものではないよ」と苦笑していましたが、頼もしいことこの上ありません。

 そのまま働いていれば、今年で入社27年目! 「あの時は……」と話題に上がる出来事が、5年くらい前の話だと思っていたら10年以上前だったなんてことばかり。4人のうち2人は再婚後に子どもをもうけ、来年は中学受験だそう。信じられない! いったい、この27年間私はなにをしていたのか。もうひとりの同期に子どもはいないものの、夫はいます。私は偽名で仕事をするようになったものの、ライフステージは変化なし!

 仕事が残っていたので、私は一次会のみの参加でした。たった2時間だったけれど、いつもと違う風が体のなかを吹き抜けたようでスッキリ。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 というのも、ありがたいことに最近はどなたも私を丁寧に扱ってくださるため、甘やかされすぎているのです。誰もが熱心に話を聞いてくれるし、私に合わせてくれる。こんなことが当たり前になってはいけないのです、本当に。

 頻繁に会う長年の友人とは変わらぬ付き合いを続けているものの、私の仕事を見つけては愛情をもって褒めてくれる。ありがたいことですが、これも慣れてはいけない。

 そんな中、ジェーン・スーになる前から私を知っている同期たちは、さほどジェーン・スーには興味がない様子。そのおかげで、何者でもない自分として会に参加し、互いの近況をフラットに報告しあうことができました。とても貴重な時間でした。

 帰り道、少し前まで話題になっていた、定年退職後の振る舞い問題を思い出しました。肩書がなくなり、新しい環境で自分が特別扱いされないことに腹を立ててしまうという、あれ。退職前の研修で不測の事態は回避できそうですが、普段から複数の環境に身を置くよう意識していないと、とんだ勘違いをしかねない。

 お子さんがいる方は親同士の付き合いがあるので心配なさそうですが、私のような中年独身者は男も女も要注意ですね。会社から一歩外に踏み出したら、肩書は風と共に去りぬですね。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年4月24日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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