元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 ということで、ただ今ポートランド(@アメリカ)です。極寒です。時々「ひょう」が降ります(涙)。でも何とかやってます。っていうか、実は人生初アメリカなんですが、早くもアメリカ人が大好きになりました。

 前にも書いたように私の旅は少し変わっていて、名所見物とか買い物や外食を楽しむとかはしない。民泊で部屋を借り、近所で食材を仕入れて自炊し、近所のカフェで原稿書き。つまりは東京の生活と同じことをする。でも所変われば全てが大変。言葉もできないしシステムもわからないからいちいちドキドキして失敗してあたふたして何とか生き延びる。それが私の精一杯の冒険なのです。

ポートランドにてもカフェでモーニングを食べつつ原稿書かせて頂いております(写真:本人提供)
ポートランドにてもカフェでモーニングを食べつつ原稿書かせて頂いております(写真:本人提供)

 で、そうなると結局は「人の情け」におすがりすることになるわけで、邪険に扱われれば落ち込み、親切にされては有頂天になることを繰り返すわけですが、果たしてここポートランドでは邪険にされることなど一度もなし。それどころか、明らかに普通じゃない人(東洋人でアフロで超マゴマゴ)に眉ひとつ動かすことなく、レジへ行けばハーイと顔が壊れるほどの笑顔で歓待、値段が聞き取れず何度も聞き直すとお釣りをわかりやすく数えながら渡してくれ、良い1日を!と元気に送り出してくれる。それが一人二人でなくほぼ全員。これまで行ったどの国でも大変良くして頂いたが、これほどの親切さがそこかしこに満ちた場所はなかったと思う。

 私、アメリカ人に謝りたい。ずっとアメリカ人という人たちを誤解してきた。悪気はないとしても押しが強くてガサツな人たちと決めつけていた。昨今は国内の分断が進み危険という思いもあった。

 でもそれは表面的偏見だった。アメリカ人の本質は「親切」なのだきっと。困っている人を放って置けない。北海道の人に似てる気がする。開拓者の骨太な助け合い精神が根付いている人たち。ガサツどころか、相手に引け目を感じさせないように振る舞う心遣いはめちゃくちゃこまやか。ってことで日々学ばせて頂いてます。寒いけど!

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年4月17日号

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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